その小さな漁村では、今でもこの不思議な光景を目にすることができます。海を見下ろせる高い丘の上に、なんとヨットの残骸が横たわっているのです。いったい誰がどうして、こんなところまで運んだのでしょう。……これはそのヨット・西風号にまつわる、自信過剰な尊大さがあだになったひとりの少年の奇妙な体験のお話です。ええ、誰も信じちゃくれないのですが、これは本当にあったこと……。
光の魔術師・オールズバーグ。今回もこのひとの絵筆の放つ光は不思議。このストーリーの風変わりな展開を盛り上げるかのように、どことなく「ありえない」雰囲気の、幾分突き放したような感じのする光です。そこには「急行『北極号』」にみられた暖かさとはまったく違ったものがあります。空の色も、海の輝きも、どこか狐につままれたような、異次元の色合いと明るさ…。こうして彼の絵によって、わたしたちは今回のお話も現実のものなのか、本当に狐に化かされているのか、わけがわからなくなってしまう…。