『WHEN MARNIE WAS THERE』が原題です。
この題名のニュアンスも素敵ですが、やはり「思い出」と訳出した所が、
実に全編を象徴しているように思います。
主人公は孤児のアンナ。
養父母のところで愛情を注いで育てられていますが、
今一つ、外側の感覚がまとわりつき、自己肯定ができないのです。
そんなアンナが、ひと夏、海辺に家に療養にやってきて、
不思議な少女マーニーと出会うのです。
しめっ地、入江(クリーク)、そこに建つ古い屋敷(しめっ地屋敷)、風車小屋・・・。
心を閉ざした少女の心象と、海辺の風景が、目の前に広がっていきます。
50年ほど前に書かれた、イギリスの児童文学ですが、
アンナの孤独な心象は今なお共感できます。
マーニーの正体は、上巻ではアンナにも読者にもわからないままです。
友情をはぐくむ二人に、下巻では大きな展開が待ち受けています。
読み始めはゆったりとした流れですが、物語の中盤までくれば、一気に読みたくなるでしょう。
松野正子さんの上品でていねいな訳文もぜひ味わってほしいです。