父の仕事の都合で、ベルリンから遠い地への引越しをした少年ブルーノ。
彼の新しい部屋の窓から見えたものは、何とも言いようのない不気味な世界でした。
本文中にはそこがどこなのか、ハッキリした名前は明確にされていませんが、ブルーノの父への言葉で予感が的中したことを確信しました。
「ハイル、ヒトラー」
そう、舞台となっていたのはユダヤ人大虐殺が行われていた、あの収容所だったのです。
ブルーノは、その言葉の意味を「さようなら、ごきげんよう」だと思っていたのでした。
フェンスをひとつ隔てたむこうとこちらでは世界が全く違います。
ブルーノは自分と同じ日に生まれた少年と出会いますが、その境遇はまさに天と地。
2人の心は、何一つ変わりがないというのに。
このフェンスは「差別」の象徴のように思いました。
今では当時のような恐ろしいことはもちろん行われていませんが、差別意識を持つ人は少なくありません。
日本で本書を読んだ人たちも、人種差別や宗教による差別は自分たちには無関係だと思うでしょう。
でも、それ以外の差別は?
自分と異なる行動をしたり、考えを持つ人を、見下したりいじめたり不当な待遇をするのも差別です。
私たち人間の心の中からフェンスが取り外されたとき、世の中はもっと平和になるのではないかと感じました。
このお話のラストは、私の中で過去にないほどの衝撃的なものでした。
それだけ読後にも、深く考えさせられるものとなりました。
本書は2009年度の青少年読書感想文全国コンクール課題図書(高等学校)であり、2009年夏には映画も公開予定です。
お話はフィクションですが、背景となっている大虐殺は実際にあったことです。
同じ過ちを繰りかえさないためにも、このような事実があったことを多くの人に知ってもらいたいです。