誰にもランドセルの思い出があるのではないでしょうか。
私にもあります。
私のランドセルは母親のおとうさん、私のおじいさんが買ってくれました。遠い田舎から自転車で運んでくれたのですが、途中で転んだと聞きました。
でも、ランドセルは傷ひとつなかったと思います。
そんなおじいさんの思い出がつまったランドセルに、いつのまにか給食のパンだとかひどい点のテストとかが押し込まれていきました。
ごめんね、おじいちゃん。
この作品の主人公けんちゃんはおばあちゃんから届いた「カラスよりも まくろくろのランドセル」がうれしくて、おもてに飛び出します。
仲良しのゆうこちゃんに会っても、「ぼくは 一ねんせいだぞ!」と、背中にせおったランドセルを自慢げに見せます。
けんちゃんにとって、一年生はとってもえらいのです。
公園に会う人ひとにも、ランドセルを背負ったけんちゃんは、つよがって歩きます。
ところが、かわいい犬のペロとの遊びに夢中になって、大事なランドセルをなくしてしまいます。
さあ、大変。
「かおいっぱいに くちを あけて なきだし」たけんちゃん。
大事な大事なけんちゃんのランドセル。まだ学校に持っていったこともない、新しいランドセル。
けんちゃんのランドセルは見つかるのでしょうか。
ランドセルは学校の教科書とか文房具をいれるだけではありません。
一年生になった勲章みたいなものだし、それから何年もいつもそばにいる友だちみたいな存在。
いつのまにか傷がつき、汚れてもいきます。
ピカピカの光は消えていくでしょう。
でも、けんちゃんがそうであったように、たくさんの人がピカピカのランドセルを背負った一年生を応援してくれています。
がんばれよ、まけるなよ、って。
大人になると、もちろんランドセルを背負いません。
それでも、新しい生活が始まった時、私たちは見えないピカピカのランドセルを背負っているのではないでしょうか。
ランドセルをせおったけんちゃんに、たくさんの人が拍手をしたように、新しい生活を始めた人にもたくさんの拍手がおくられているような気がします。