最初に謝っておきます、お子様向けではありません。
私は絵画やイラストが大好きで、ミヒャエル・ゾーヴァ展を観に行って、
この絵本を知りました。
金の冠をかぶり、深紅のマントを羽織った、
でっぷりと太った王様が、
けれどもコーヒーカップくらいの小ささで、
新聞の上に偉そうにふんぞり返った絵の表紙が、
まず印象的です。
物語の要所要所にも、美しく不思議なイラストが添えられています。
主人公“僕”は、ごく平凡なサラリーマン。
どちらかと言えば、仕事は決して好きではなく、
友達づきあいも多くもなく、日常にあきらめと孤独を感じています。
そんな彼の日常に、突然、小さな小さな王様が割り込んできます。
当初は、お互いの世界の違いを語り合うだけだったのが、
王様が“僕”の世界を知りたがることで、
逆に、“僕”のものの見方が変わってゆきます。
会社に行きたくないと思ったのは、
ドラゴンが会社へ行かせまいと攻撃していただなんて、誰も想像しないでしょう?
王様は、世の中には存在しないと思いこんでいるものが、
実は存在すると言うのです。
現実と空想の境目のはっきりしない中で、
王様の部屋を訪ねたり、チェスやサッカー盤ゲームをしたり、
おもちゃの車に乗って王様と一緒に絵を届けたり、
本来ならば奇妙な生活が、リアルに綴られます。
それは結局、視点を変えると、これまで考えたこともなかったことが、
ただ見ようとしなかっただけで、実はそこに存在する可能性を秘めている、ということ。
日々の生活に疲れてしまった大人の皆さんに、「まさかぁ〜!」
と、思いながらも、「そうだったら面白いかも…」
と、少し気持ちが楽になる、静かな共感を呼ぶ物語です。