安房直子さんの遺作です。思春期を共に北海道で過ごしたという味戸さんが絵を描いていることも、安房さんと味戸さんの縁のようなものを感じます。
安房さんの世界には味戸さんの絵がよく合っていると思っているからです。
山姥と人間の間に生まれた小夜。
山姥のお母さんは、小夜の幼い時に家を出て行ってしまいます。
読みながらいつの間にか自分も山の精と人間の子どもである小夜の気持ちになりきって読んでいましたが、最後の「山んば、ごめんね」という言葉で、ポンと現実の世界に引き戻された気持ちになりました。
鬼の子どもの「十以上の人間とはつきあわないぞ」という言葉が出てきます。小夜はこの物語の中で12歳、大人に近付いていきます。
「『つ』のつくうちは神のうち」という言葉を聞いたことがありますが、子どもの10歳頃というのは、今までの子どもの感覚と明確に何かが変わっていくことを示しているような言葉だと思いました。小夜は鬼の子の前で8つと嘘をつきます。
大人になるということの一つに、現実と折り合いをつけて生きていくということがあります。
現実を受けて入れて生きて行くことは、ほろ苦いことも多い。そのほろ苦さを小夜と一緒に味わったような読後感が残りました。
この作品を持って新しい安房作品が生まれなかったということは、ファンである私にはさびしいですが、他の作品と一緒に大事に読んでいきたいと思っています。