【あらすじ】
宅配のパン屋さんだったくるみさんは、この春やっと駅前にお店を出すことができました。5月1日の開店初日は、記念にすべてのパンが半額。チラシを配った効果もあり、初日は閉店時間を待たずに売り切れてしまいました。くるみさんがお店を閉めようとした時に、キツネのお客さんがやってきて…
ほっこり心が温まるパンにまつわる短編、12作品が収められています。
【感想】
どの作品も、大変、優しいお味でこころがちょうどよく満足するボリュームでした。
このお話を読んでいると、パンを食べたくなって困ります。
日本の、昔ながらの家庭的なパン屋さんの雰囲気があって、親しみやすい作品ばかりです。お洒落で都会的なパン屋さんとも、外国の乾いた空気の中にあるパン屋さんとも違う、ほっとする味わいです。
ファンタジックな物語の世界と、仕事で生計を立てる現実的な世界が、行ったり来たりするところがステキです。うさぎのお客さんの、パン代が「新鮮なヨモギ 1かご」で、軽くガッカリしたりする、しっかりと地に足がついているくるみさん。きっと商売も手堅く、基本に忠実にやって、長く人に愛されるパン屋さんを続けていける事と思われます。
開店当初の慌ただしさや、パンの売れない時期などがリアルに感じられて、物語のヒロインも楽じゃないな…と思ったら、急に、くるみさんとの距離が近くなりました。
パンを買って応援してあげたい気持ちでいっぱいです。
カッパのパン、カエルのパンは、話の展開が意外な感じ。爬虫類とパンのイメージの違和感も楽しい。魔術師のパンを読むとカレーが食べたくなる。作者も物語を書くにあたって、いろんなパンを食べたとか。パンを食べる人にも、パンを食べない人にも味わってほしい作品です。