私が小川未明の童話を好んで読んでから、考えると45年もの年月が経っている。中でも好きだったのが『赤い蝋燭と人魚』。絵の記憶がないのでたぶん作品集の中の一つの話だったのだと思う。
今回この本を手に取ったのは、酒井駒子さんの絵の影響が大である。
考えると、酒井さんの絵の画質はこの童話にぴったりと当てはまっている。
童話の中で描かれる人のサガ、ろうそくに込められた重い伝承、運命、そしてこの話のもつおどろおどろしさを見事に描き切っている。
救いようのない暗い話である。
人魚の子供を拾い上げ、愛情をこめて育てた老夫婦が、怪しげな香具師の言葉にそう簡単に心変わりするものだろうか。
かつてこの本を読んだ自分は、老夫婦が鬼に変わるような心変わりが怖かった。
怪しげな香具師と南国に向かう船という、不思議な異国性に妙な魅力を感じたものである。
そして救われない人魚の運命の不条理を、どうして助からないのか、この話の設定を忌みながらも、目を覆った手のひらの隙間からやっぱり眺めてしまう小川未明の魔力に感嘆していたのである。
この絵本の良さは、ろうそくを蝋燭と書き、漢字が多いことである。難しい言い回しを漢字に振り仮名をつけることで通していることである。
ひらがなや現代文に置き換えてしまったら、小川未明の良さは失せてしまう。
したがって、この本は読む本である。
少しの抵抗の後、虜になってしまうような魔力を小川未明は持っている。
酒井さんの絵の魔力と共通しているのかも。