絵本だからといって幼児だけが読むものではない。
大人が読むのに十分な絵本や中高生でも読んでもおかしくない絵本はある。
この絵本の場合、小学高学年あたりの児童を読者として想定しているのだろうか。
ちょうど、生とか死について考えだす年頃といっていい。
山奥の村に住む、わたるという少年がこの物語の主人公。
村の小学校は今ではわたる一人になっている。
そんなわたるの友人というと、ひいじいちゃんの「伝じい」、93歳。
伝じいは昔熊撃ちとして鳴らした猟師。32頭の熊を撃ったり、雪の中熊の穴で一緒にいたこともあるという。
そんな伝じいが病気で入院してしまう。
わたるは伝じいの話を聞くのが大好きだから、毎日病室に通っている。けれど、病室のドアを開ける時、少し怖くもなるのだ。
だから、伝じいからおそわったいのりの言葉をつぶやくこともある。
いよいよ伝じいが弱ったきた時、わたるは伝じいが見たいといっていた大朝日岳を替わりに見てくることを約束して、それを実行するのだ。
「伝じい、見てきたぞ」と病院に駆け込むわたる。
このページに描かれたわたるの顔がいい。絵を担当しているのは松成真理子さん。
わたるの目の奥に山の風景が見えるといった伝じいの気持ちが伝わってくるような絵だ。
死のまぎわ、伝じいはわたるに「じぶんの木」の話をしてくれる。
それは、人は生まれると「どこかにポッと」同じように木の芽がでるのだという。それが「じぶんの木」。
その木はその人が死んでもいつまでも生き続けるのだと。
子どもたちに死のことを話すことは難しい。
それは生きることを説明するのと同じくらい難しい。
いや、逆かもしれない。生きることを話すのが難しいから死のことは話しづらいのかも。
この本は絵本だけれど、とっても深い意味が込められた作品だ。
深い意味を松成真理子さんの絵がやさしく包んでくれている。