読者の責任と言うものを初めて感じた作品でした。
この本の存在をしらせなければ。そしてみんなに読んでほしい、と心から願います。
アメリカの奴隷制度の是非をかけた南北戦争での二人の北軍少年兵のお話。
傷ついて倒れていた白人の少年兵セイを黒人少年兵のピンクが助けます。ピンクはセイを故郷へ連れて行きそこで静養させます。ピンクの母モーモーベイは親身に世話をします。その後、モーモーベイは二人をかくまうために敵軍に殺され、二人もつかまってしまうのです。
ピンクはつかまった日に収容所で処刑されてしまいます。
一方セイは何とか生き延び、家族を持ち自分の体験を子供たちに語り継ぐのです。ピンクの名前をこの世に残すために。彼には語り継いでくれる子孫がいないから。
「彼の手」とはセイが大統領リンカーンと握手した手を意味します。ピンクが故郷でセイの手を握ったとき、モーモーベイは言いました。「リンカーンさんの手を握るのと同じくらいすごことだよ」
ピンクとセイが収容所で引き離されるとき、最後の最後まで握りあっていた彼の手。それに触れていることは、言わば、本当に自分の人生を、使命を、アメリカの行く末を賭けて戦った戦争の心のよりどころであったのではないでしょうか。
南北戦争に限らず、有史以来の戦争でピンクのように肌の色・人種が違うからと虫けら同然に殺された人は一体どのくらいいるのでしょう。
その1人1人に当然人生があったわけで、本来ならば家族を持ち子孫を残せたはずの人々。
ここにはピンク1人の名前しか出てきませんが、彼の名前を後世に留めることで、他の亡くなった人たちへの鎮魂に少しでもなれば、と考えました。
セイは作者パトリシア・ポラッコの曾曾おじいちゃんにあたります。
代々語りつかれてきた事。「この手はね、リンカーンと握手した手にふれた手なんだよ」そしてピンクス・エイリーの名前。
それからもう一言だけ。
作者パトリシア・ポラッコは自叙伝絵本「ありがとうフォルカー先生」のトリシアです。本当に素晴らしい作家だと思います。
こちらも併せて、是非読んで見てください。