木漏れ日の下を歩いたとき。プリンに最初のスプーンを入れたとき。TVで遠い国のニュースを見たとき。ふと思い出す絵本のシーンがあります。脳みそ倉庫の奥の奥のほうにしまわれていた、森やごちそうや戦争のシーンが、時間と空間を越えて今の自分の前に飛び出してくる。そんなことがあった日は、血をわけた兄弟に再会したような、なつかしく照れくさい、それでいてウキウキした気分になります。ここしばらく頭を悩ませていた難問が解決するヒントになることだってあるかもしれません。
「ワハムとメセト〜ふたごの国の物語」は、国家という怪物に高山貴久子さんが真っ向からとりくんだ力作です。人間のずるさや欲望や防衛本能をガブガブと飲み込んで、どす黒く巨大化しているこの怪物のある一面をうまく切り取っています。そして何より、長田恵子さんのエッチングが、この物語の、読者の脳みそ倉庫へ保管される可能性を高めています。王国の人々はよく見ると、野ウサギような耳がはえていますし、えらーい学者はひげをはやしたヤギです。最後に王国を侵略する異教徒たちは、オオカミみたいなフシギな顔。みんな中世っぽい服装をしているれっきとした人間ですが、ここら辺のセンスが教訓めいたお話を、上品なユーモアで包むことに成功しています。中東の砂漠を思わせる黄色紙に印刷された、アカやオレンジやアオ色のエキゾチックな風景を、「もう一度みたいよ」と目がおねだりします。
ホメロスの叙事詩にも似た骨太の絵本です。というのは褒めロすぎ?!