波は9才の女の子。ひょんなことから近所のおばあさんの犬の散歩を手伝うことになり、おばあさんの家の2階にいる朝夫と出会う。朝夫と会うことが楽しみになり、波はクラブや塾をさぼるなど母との約束を次々に破ってしまう。
子どものことを一生懸命に考えているが、それが押し付けであり独りよがりだと気づかない母、そんな母に本当の気持ちを言えない波、体が不自由で気難しい近所のおばあさん、学校で虐められているらしい朝夫、どこか大人びている近所の女の子、真麻。そんな彼らを繋ぐ役割を果たしている老犬のハル。物語はそんな彼らの日常を交差させたもの。
彼らは物語の中でそれぞれ成長するが(おばあさんでさえも!)、何よりも波の柔らかな子どもの心、そして強いものに押しつぶされそうになりながらも自分らしさを築きあげていこうとする姿が印象的だった。心の奥深くの声が波に、「自分の中にあるものをなくしちゃいけない」「守れ」と言ったのだった。そして、その声を波は聞いた。
大人は子どもより自分の方が正しいと思い、子どもの想いや考えをないがしろにしがちだ。この本ではそんな立場にある子どもの気持ちが丁寧に描かれている。表紙の酒井駒子さんの絵もとてもいい。(もの想う波と寄り添うハル?)読み手を選ぶ本だと思うが、波のように色々なことを感じたり考えたりしている小学校高学年以上の女の子にお勧め。