今年の新年早々にこの絵本を本屋で見つけ、絵も素晴らしいのだが、私の心を惹き付け離さなかったのは、一頁にほんの数行載せられた、ひらがなだけの言葉だ。
シンプルに洗練されていて暖かく、さり気なくごく自然に心の中に入ってくる。
最初は何の変哲もない前奏があって、最後のページで愛に包み込まれるような幸せが心の中を満たして広がっていくのだ。
この絵本は物語り絵本という形態ではなく、読者に直接作者のメッセージを伝えてくる。
例えば「スプーン」。スプーンの持つ特徴をいくつか挙げていく。
人によって好みも様々で、デザインが凝っているものが好きな人もいるだろうし、大きさにこだわって自分の口にちょうどいい大きさのものを愛用している人もいるだろう。
だけどスプーンにとって最も大切なことは「それを使うと上手に食べられるということ」。
こんな具合に、無機質な日用品や、雪、雨、風といった自然現象の一つずつを材料に、そのものにとって一番「大切なこと」を丁寧に確認していく作業を繰り返していく。
そして最後の最後に、物でも小動物でもない「あなた」が題材になる。
あなたとは当然読者を指している。
それは小さな子どもであったり、子どもにこの絵本を読み聞かせてる大人でもあるのだ。
あなたにとって たいせつなことは?
長男が通う小学校のクラスの(2年生)最後の読み聞かせに、私は迷わずこの絵本を選んだ。
2年間付き合ってきた子どもたちに、私なりのメッセージを伝えたかったから。
朝のざわざわした教室に始業を知らせるチャイムが鳴った。
そして静かに絵本の時間が始まる。
私が最後の絵本を皆に見せて「たいせつなこと」とタイトルを読み上げると、続いて子どもたちも嬉しそうに「たいせつなこと」と繰り返す。
じっと絵本を見つめて聞いている子。
隣の子にちょっかいを出しながら、それでもちゃんと聞いてる男の子。
私が読む言葉の一つずつに頷いている女の子。
子どもたち一人一人を見渡す優しい先生。
あなたにとって たいせつなのは
あなたが あなたであること
最後にこの言葉を読み上げた私自身にも、胸に染みるメッセージになった。