大切にしている本です。最初に読んだのは中学生のときでしたが、表紙の強烈な印象が心にひっかかり、忘れられませんでした。社会人になってからも、何か心に刺さった刺のようにこの本のことがずっと引っかかっていて、25歳でとうとう手に入れ何度となく再読を繰り返しました。
これは「自己の喪失と再生」の物語です。
くまであることを取り上げられたくまが、くまであることを取り戻すのも結局「くま」で有るが故に逃れられなかった自然の摂理であったことが、「自分が自分であること」の真理を問うているような気がするのです。おそらく、人類がこころという概念を持って以来ずっと問われ続けてきたであろう「私は誰?」という問い。「わすれてしまったたいせつなこと」があるのではないか、そしてそれこそが「私」に私が誰なのか教えてくれるのではないか。中学生の私に引っかかってきた刺は、自分を知ろうとする強烈な自我の意識だったのだろうと、今では思っています。
大人になろうとしている年代の子供たちに読んでもらいたい本です。ただ、今読み返すと、くまを取り巻く人間たちの悪役的ステレオタイプぶりが少々気になりました。何だか、「これから辛い展開になるぞっ」と宣言されているようで、万人を引きつけるというタイプの作品ではないような気がします。