現代の社会問題に関する題材の選び方・及びその扱い方が秀逸であると思う。
前作「ピーティ」では、「障害者福祉」を一人の少年の孤独と合わせて描き、その話題をぐっと身近なものとすることに成功させていた。
本作で要となるのは、「サークル・ジャスティス」という制度とその制度の適用による少年の更生の過程を説得力をもって語ることができるか、ということだろう。
サークル・ジャスティス以外に見どころとなるのが、筆者のリアルで圧倒的な迫力を持つ筆致。
主人公コールが、スピリットベアに無謀な戦いを挑み、叩きのめされ生死の境目を彷徨う場面は、まさに目が離せない。物語の中盤であるにも関わらず、まるでクライマックスのようでもある。
しかし、だからこそのコールのその後の変化に説得力を持つ。
主人公のコール・マシューズは、同級生に対する傷害罪で裁判にかけられる。
コールは、家庭に恵まれず、心に強い怒りを抱え、それは反社会的な行為として外に向かう。
そんな彼に力を貸すのが、第三者である少年保護観察官であるガーヴィーとインディアンの古老エドウィンなのである。ガーヴィも、やはり、間違いを犯した過去があるらしいことをうかがわせる。
ガーヴィーの尽力により、コールは、刑務所で罰せられるのではなく、もう一度孤島でやり直すチャンスを与えられる。自分でしたことが全て自分に返ってくる自然の中、コールは、理不尽な怒りを父性の象徴であるかのようなスピリットベアに向け、叩きのめされる。
奇跡的な回復後、コールには、ガーヴィーやエドウィンの教えを受け入れる準備ができていた。
焚き火の周りでの踊り、水浴、石運び。
数々のエピソードの中で、心に残ったのは、枝の左端を怒りに、右側を幸せに見立て、怒りを折り取る話だ。折っても折っても左端はなくならない、全てを捨ててしまえば幸せをもなくすことになる。怒りは決してなくならない。全てはどう見るかにかかっている。
激しい心の葛藤、苛酷な体験を乗り越え、厳しい自然の中での暮らしによって、コールは、真の目覚めに導かれていく。
家族について、自己と向き合うことについて、自分の感情との付き合い方について、様々なことについて読む側に投げかけてくる、やはり傑作なのでしょう。