ふたつちがいの弟がいた。
残念ながら、弟が生まれた時のことは覚えていない。少しだけ、おにいちゃんになったはずなのに。
けれど、自分の娘の場合はちがう。
ふたつ遅れて、妹が生まれてきた時の、上の娘のことはよく覚えている。
それまであまり甘える子ではなかったが、妹が生まれてから甘えだした。忙しいママに構ってもらえなくなって、指吸いが始まった。この癖はそのあと、なかなか治らなかった。
そういうことで彼女なりに心のもっていき場をさがしていたのだと思う。
この絵本は、なっちゃんという女の子のおうちにあかちゃんがやってきたところから始まる。
ママと手をつなぎたいのだけれど、あかちゃんを抱っこしていてママの手はふさがっている。しかたがないから、なっちゃんはママのスカートを「ちょっとだけ」つかんで、歩く。
牛乳を飲みたいのに、ママはやっぱりあかちゃんのことで忙しい。なっちゃんは一人で冷蔵庫から牛乳を取り出して、初めて一人でコップにいれる。テーブルの上には、こぼれた牛乳が。
パジャマも一人で着ないといけないし、髪の毛だって、自分でくくる。
いつも「ちょっとだけ」うまくいく。
つまり、その残りはママほどにうまくいかないということだ。
遊んだあとは、ちいさいなっちゃんはまだ眠くなってしまう。
そして、とうとう、「ママ、”ちょっとだけ”だっこして・・・」とせがみます。
この時のママの答えが、いいのです。
「”ちょっとだけ”じゃなくて、いっぱい だっこしたいんだけど いいですか?」
なっちゃんの、とびきりの笑顔が光ります。
文を書いた瀧村有子さんは実際の生活でも三児のおかあさんだそうです。この視点はおかあさんだからこそ生まれたものともいえます。
絵本はこの作品が初めてだそうですが、やさしくて簡潔な文章は余韻を残します。
また、鈴木永子さんの絵がとてもいいのです。なかでも、ママに「いっぱいだっこしたいんだけど」と言われたあとの、さっちゃんの笑顔の素晴らしいこと。
文と絵の、おみごとな調和は「ちょっとだけ」ではありません。