小学生の頃に大変仲の悪い女の子がいました。
何かあれば言い合いをしていて、それがどんな内容であったかは全く記憶にないのですが、担任の先生に言われた一言だけはよく覚えています。
「男と女は喧嘩するほど仲がいいものだ」。
そのあとその女の子と仲良くなった記憶もないのですが、なんだかその言葉があたっていないともいえなかったような気恥しい思いだけが残っています。
仲がいいというには、ついちょっかいを出してしまいがちのような気がします。
長谷川集平さんのこの絵本は、そんな小学生の姿を描いています。
学校の帰り道、ぼくを待っていたれおくんは「シェー」のポーズ、これは昭和30年代に生まれた子どもならみんなしたと思いますが赤塚不二夫さんの漫画「おそ松くん」に登場するイヤミの決めポーズです、をしたり、顔面七変化をしたりで、ぼくを笑わせます。
でも、ほかの友だちに聞いても、れおくんにへんなところはありません。
どうして、ぼくにだけ、れいくんはへんな顔をするのでしょう。
ある日、ぼくのお母さんがしている太極拳の見た帰り、勇気をだしてぼくはれおくんに訊いてみました。
「なんでぼくにだけへんなかおするの?」
れおくんは答えます。
「ともだちにしかみせられないかおがあるんだよ」って。
この場面を描く長谷川さんの絵が素敵です。
この時二人は見晴台の上に立っているのですが、風が吹いていて、二人の髪はなびいています。
まっすぐ遠くを見つめるれおくんの目は大きく開かれ、澄んでいます。
れおくんを見つめるぼくの顔も真剣です。
風、それはこれから二人が向かうであろう人生という風かもしれません、を絵本が見事に伝えてくれます。
「ともだちにしかみせられないかお」。
それは愛する人にしか見せられない顔のことです。
いつもまじめに上品ぶっているのは疲れます。
本当の私、本当の私の顔を見せた時、人はどれだけ安らげることか。
長谷川さんのパステル基調のこの絵本に、そんなことを教えられました。