家族の絆と、それ以上の人間愛。
これほどの思いやりがあるのだろうか。
終戦直後のウィーンで、混乱の中で母とはぐれてしまった一人ぼっちの少年トーマスが、親戚のおばさんの家を訪ね歩いてきます。
家は戦禍で形もなく、玄関跡に座る女に邪険に追い立てられるようにしてさまようトーマス。
そんなところで知り合ったのが松葉杖のおじさん。
胡散臭くも思えるあやしいおじさんが、トーマスの母親探しとトーマスが生きるために、ここまでできるのだろうかというほどの、愛情を注ぎ、母親との再会までの旅を共にしてくれます。
読んでいて涙が出てきたのです。
戦後の混乱の中で、生きるための生々しさ。
その中で、「松葉杖」はトーマスのことを考え続けます。
「松葉杖」の人間臭さと、博愛とが、様々な出来事の中で、トーマスとの絆を深めていきます。
最後のシーンで、トーマスは母親と再会します。
けれど、振り向くと「松葉杖」の姿はない。
戦争を経験し、自ら悲しい思いを持っているヘルトリングだから、ここまでかけるのでしょう。
戦争は遠い過去になりました。
でも、「絆」という言葉の意味が再認識されている今、この本の入手が難しいことがとても残念です。