父親が亡くなった少女が、寂しい気持ちや孤独から、木との交流によって希望の方へ再生していく静かな物語です。
美しい絵と、美しい文章が、深く豊かな読書体験をさせてくれます。
こういった本物の絵本をもっと多くの子どもに読んでもらいたいです。おすすめです!
子どもの頃の、寂しい気持ち、孤独だった時間、
今でも心のどこかにある透明な場所。
大人が読んでも、そういう色んなものが思い出されて、胸が熱くなり、涙が出ます。
物語の中で、最初に少女は、木の幹をさわると、
「なんだか木にきらわれたみたい。
たぶん木は、
カラスにしかさわってほしくないのだろう。」
と思います。
しかし、少女が色々な思いを回想し、父親の死の哀しみや寂しい気持ちから、思い出を慈しむ気持ちや愛おしむような気持ちに変化していくと、以下のようになります。
「うちのことはわすれて、
もう一度また、木の穴に指をおしこんでみる。
こんどは、さわられるのがいやじゃないみたい。
となりでわたしが考えたことを、
この木はぜんぶきいていたのだろう。」
そしてさらに、少女は木の音をきいてみます・・
このように、深い哀しみや孤独をも包んでくれる存在に耳をすますことの大切さ、世界の美しさが、綺麗な絵とともに描かれている絵本です。
むかし、学校の先生が、「傷つく、というのは、深く心が動くということだから、傷つくという体験や哀しみも時にはだいじなんだ」というようなことを言っていて、印象に残っていたのですが、この絵本を読んで、
心に深い哀しみがあっても、その奥の透明な場所から、物を慈しむ心や人生の美しさを見いだす力が生まれるのだな、と感じました。
小2の女の子に読みきかせたら、長いのに最後まで集中して聞いてくれました。
「木の音をきく」ような、自然の声に耳をすますこと。感覚を開いて、世界の美しさを味わってみると人生はもっともっと美しくなることが、子どもたちに伝わるといいなと思いながら読みきかせています。