童謡「ぞうさん」は、詩人まどみちおさんの代表作である。
「ぞうさん/ぞうさん/おはながながいのね/そうよ/かあさんもながいのよ」。
きっと誰もが唄ったことがあるだろうこの詩は、実にシンプルで明解だ。
だから、親しまれているのだろう。
この歌がなくても、子どもはぞうさんが大好きだ。
身体が大きく、動きもゆっくり。大きな耳、長い鼻。子どもにもわかりやすい体型をしている。
パンダやコアラといった新しい人気者が現れても、ぞうさんはダントツに人気が高い。
絵本作家五味太郎さんの描くぞうさんもわかりやすい。
たぶん写実という点ではちがうのだろうが、これはやはりぞうさんでしかない。
ある日草原を歩いているぞうさんに近寄る怪しいヘリコプター。そこからのびる大きな網。
ぞうさん、あぶないよ。
ページから子どもたちの叫ぶ声が聞こえそうだ。
連れ去られたぞうさんはもっと大きな飛行機に乗せられて、もっと遠くに運ばれていく。
そして、ついに、ぞうさんは飛行機から落とされて。
ページをめくる子どもたちの心臓の音が聞こえそうだ。
心配しないで。
ぞうさんはぞうさんよりもっと大きな落下傘でふんわりと地上に届く。
そこは街の動物園。
ぞうさんを歓迎する人々でいっぱいだ。
でも、ぞうさんはうれしくなんてない。
だって、突然連れてこられたんだもの。
さあ、ぞうさんは住んでいた草原に帰れるでしょうか。
五味さんの絵は、まどさんの詩のようにとてもシンプル。
配色もごちゃごちゃしない。
緑、赤、青、灰色、クレヨンそのままでわかりやすい。
僕にも描けるよ、そんな子どもたちの声が聞こえそうだ。
それでいて、ちょっとハラハラ。
だって、ぞうさんがどこに行くのか心配したり、あんなに大きなぞうさんが空に浮かびあがったりするのだから。
きっと子どもたちは五味さんの絵本が大好きにちがいない。
だって、五味さんの絵本には子どもの心がいっぱいだもの。