宮沢賢治の作品です。
博物館員キュステが、子どもの頃に、剥製の蜂雀から聞いた話ということで物語が進んでいきます。
途中、一部原稿が欠損しており、おそらくその間にペムペルとネリは何らかの理由により二人きりで暮らすことになります。
お金というものを知らないまま、日中は畑を作り、楽しく暮らす二人。
ある時、見たこともない黄色のトマトがなって、それを黄金だと思ってしまったところから、物語は悲しい結末へとつながっていきます。
農学校で学び、教師でもあった賢治らしく、トマトの名前や描写が詳しく、今でこそ黄色のトマトも珍しくありませんが、当時の賢治にとって、黄色のトマトはまさに黄金のように見えたのかもしれません。
その黄色のトマトを色鮮やかに描かれた降矢さんの挿絵もとても素晴らしく、その幻想的な世界はまさに賢治の作品にピッタリだと思いました。
冒頭の博物館の様子、青ガラスの部屋の様子、そしてサーカスの異国情緒あふれる世界・・・
読み聞かせをして、息子は小さく描かれている蜂雀を探しながら、黙って聞いていました。
読み終わっても、一人で前のページを読み返しながら、降矢さんの描く賢治の世界の余韻に浸っているようでした。