自分が子供のころ、教科書か何かに載っていた宮沢賢治さんの作品は、擬態語の繰り返されたメルヘンチックなものだった。そしてその後、自分から進んで彼の作品にふれることはなかった。
子供ができて、何か本を選んであげようと思ったとき、彼のやさしい文体を思い出した。男の子が興味持ちそうな話を…と思い、本書を手に取りページをめくっていくうちに…。
おりしもわたしは映画『タイタニック』を観たばかりであった。乗っていた客船が沈没した、という客のくだりまで読んだとき、ああ!これは死んだ人を乗せる列車なんだ!と気づき…じゃあ、カンパネラは?カンパネラは?(確か彼は川へ遊びに行ったはず…嫌な予感がした)もうそれ以上、ページをめくるのが、ジョバンニとともにもとの世界へ戻るのが怖くてたまらなくなった。
一つ一つのエピソードの奥が深そうで、ほんとうのところは理解できていないけれども、どんな悲しいことがあっても、不条理なことがあっても、人は生きていかねばならないのだなあ…と思った。