1970年とは思えない弾けた作品です。
くまの親子が冬眠していると、あなぐらの外で大勢の気配と、地面を掘り起こす音がして、子ぐまたちが目を覚ましました。耳を澄ますと、「クリスマスがやってくる。サンタクロースがもうすぐくる。」と聞こえるようです。思い切って外をのぞいた小ぐまたちが見たものは、木が掘り起こされ、穴ぼこだらけで、一変してしまった景色でした。子ぐまたちは、さきほど聞こえた“クリスマス”というものが“攻めてきたのだ”と思い込んでしまいます。さっきまでかわいい顔をしていた子ぐまたちの顔が引き締まり、可笑しな戦闘服?に着替えると、雪玉を積み上げてクリスマスを迎え撃とうと構える姿に、息子も笑い転げました。強く見せようと、テープでくっつけたヒゲがまたいいんです。
クリスマスが何かを知っている読み手と、本気でクリスマスと戦おうとしている子ぐまとの温度差が、とっても可笑しいです。そうそうドン・キホーテもこんな感じでしょうか。
70年当時は、今ほどクリスマスが浸透していなかったのかもしれませんし、小野かおるさんが幼少の頃感じた、クリスマスに対する妄想をくまに投影したのかもしれません。でもいつの時代であろうとも、冬眠するくまにとっては、クリスマスは知りようのないイベントですね。
小野かおるさんのコメントの中に“大人になっても、にやっと、心をくすぐるような新鮮な作品作りをしていきたい”と書いてありました。その通り、40年経った今読んでも十二分に楽しめる、新鮮で勢いのある作品に、親子で心をくすぐられて、忘れられない作品になりました。ソフトカバーの作品ですが、是非復刻されて、最後は子ぐまたちもにこやかな表情に戻って、“ケーキの花火”でめでたしめでたし、というのを見て欲しいです。