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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  絵本が教えてくれる国際基準の性教育『女の子のからだえほん』監修・艮香織さん&エッセイスト・犬山紙子さん対談

「性教育は、性行為を教えること」だと思っていませんか?

日本の保護者世代は、学校や家庭で詳しい性教育を受けてこなかったため、多くの人が「性教育」について誤解しています。世界では「性を科学的に正しく理解することが、ジェンダー平等や多様性、さらに暴力や強制のない人間関係を育むことに繋がる」という、「権利や尊厳」に基づいたものという考えが標準になっているのです。

日本では、「性について学ぶことは、人としての尊厳や権利について学ぶことである」という認識が希薄です。さらに社会全体として「女性が自分の身体や性について語るのは、恥ずかしいことだ」という意識が根強く、女性性の肯定感と自分の身体の仕組みについての正しい知識がないまま、性交や妊娠・出産を迎えたり、女性由来の病気にかかったりすることも。さらに「性的虐待」や「ジェンダーハラスメント」、「デートDV」などの被害に遭って、心と身体の健康を損う危険にもさらされているのです。

そこで注目されているのが、幼児期から家庭で取り組む「性教育」と、その手助けをしてくれる絵本の存在です。パイ インターナショナルから4月14日に発売された『女の子のからだえほん』は、すべての人が女性性について正しい知識を得ることができる注目作。現在子育て中で「児童虐待問題」に取り組んでいるエッセイストの犬山紙子さんと絵本の監修を務めた艮香織さんに、『女の子のからだえほん』の特徴や、家庭での活用方法などを話していただきました。

  • 女の子のからだえほん

    出版社からの内容紹介

    国際標準の性教育を日本の子どもたち、そしておとなたちへ

    本書は、フランスで女の子を持つ2人の母親がクラウドファンディングで制作した性教育のえほんです。からだの構造から、思春期、性自認、性的指向、性的同意、愛などの人権教育に及ぶテーマまで扱った良書で、その公益性が認められ、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の「性の健康と人権」認定マークを獲得しています。日本人が苦手とする性教育のテーマをタブーなく正しく語り、尊厳の本質を明確に教えてくれる本は、やがて社会に出ていく子どもたちが、これからの時代を自由に生きていく力になります。本国で発売後すぐにベストセラーとなった良書を日本の子どもたちそして大人たちにも手にとってもらいたく、日本語版を刊行いたします。

この人にインタビューしました

艮 香織

艮 香織 (うしとらかおり)

宇都宮大学 共同教育学部 教員。専門は性教育と人権教育。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会幹事、同「乳幼児の性と性教育サークル」運営委員。著書に『教科書に見る世界の性教育』(共著、かもがわ出版)、『性教育はどうして必要なんだろう?』(共編著、大月書店)、訳書に『改訂版国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(共訳、明石書店)などがある。

この人にインタビューしました

犬山紙子

犬山紙子 (いぬやまかみこ)

仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職。20代を難病の母親の介護をしながら過ごす。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めるたところネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。その反面、ゲーム・ボードゲーム・漫画など、2次元コンテンツ好きとしても広く認知されている。

表紙は「性器をポジティブに捉えて」というメッセージ

───おふたりは、この絵本を初めて手に取ったときにどう思いましたか?

犬山:表紙の絵を見て「かわいい柄だな」と思ってよく見たら、女性器なんですね。それに気づいたときに、やっぱり少し「恥ずかしい」と思ってしまったんです。わいせつな描き方ではなく、身体の一部がただ描かれているだけなのに。私自身がこれまでの社会活動で、「性教育は大切だ」と考えて発信しているのに、絵本の表紙になっている女性器を「恥ずかしいもの」と感じる気持ちが自分の中にあることに気づかされて……。それから、デスクの目につくところに置いているうちに見慣れて、「なぜ私は恥ずかしかったんだろう」という気持ちに変化しました。

───私も、真正面から見るのが少し恥ずかしいと思ってしまいました。

:私は最初に「お花」に見えたので、性器だとわかってびっくりしました。性教育の絵本はたくさんあって、表紙で男性器を描いている絵本もありますが、アーティスティックな絵柄とはいえ、女性の外性器を表紙に置いてあるのは初めて見たからです。

この絵本が誕生したフランスでは、1970年代から性教育の取り組みをしている長い歴史がありますから、日本とはだいぶ異なります。「性が人権である」という前提があるフランスで生まれた絵本の表紙に、「女性器をポジテイブに捉えよう」という思いが込められていることを感じ、挑戦的な試みだなと思いましたね。だから、表紙だけ見ても、大人が意見を言い合えるというか。この絵本を日本で紹介しようと思ったのもすごいなと思って、監修を引き受けました。

───編集の根津さんは、どういった思いで『女の子のからだえほん』の出版を進めてきましたか?

根津:当初は、日本の読者にはちょっと先進的すぎる本かと思ったのですが、国際標準の性教育の指標を定めるユネスコ認定の本ということで、調べてみると、日本の性教育が他国と比べて20年以上遅れてしまっているという現状を知りました。様々な制約の中、奮闘されている先生方もいらっしゃいますが、日本では性教育に対する偏見や苦手意識が根強く、教育現場は未だ厳しい状況に置かれているようです。このような状況下でも、性教育のスタンダードとして世界の子どもたちが学んでいることを、当然のように日本の子どもたちが学べる機会を少しでも増やせれば...という思いで制作を進めてきました。

リモートで取材に応じてくださった艮さん

───この絵本を18歳の娘に読んでもらったところ、同じように表紙を見て驚きつつ、読んでみたら「高校の保健体育の教科書よりも詳しい」ことに感心していました。日本での出版にあたり、艮さんからはどんな意見を出しましたか?

:最初に確認したのが表紙のデザインをどうするかでした。アートでも、不思議なことに男性器は問題になっていないけれど、女性器はさまざまなトラブルが起きていますので、「わいせつ性」について法的に問題があるのかを編集の根津さんに調べてもらいました。

根津:調べた結果、「わいせつ性」についての法的な定義はなく、それを「わいせつ物」として捉えるかどうかが問題になることがわかりました。『女の子のからだえほん』の内容は、正しい知識を得ることを目的としている絵本で、わいせつの意図はありません。中身を読むと、表紙にあえて女性器の絵を出している意図が明快に感じられるので、社内で検討を重ねた結果、フランスの原書版と同じ表紙にすることに決まったんです。

犬山:男性器よりも女性器の表現に対して、厳しい印象がすごく強いですよね。でもこの絵本は、もちろんわいせつの意図はありませんし、「女性器は恥ずかしいものではない」というメッセージがすごく伝わってきます。そのメッセージを受け取ったとき、自分の体と向き合えるようになるんじゃないのかなと思って。

犬山さんは、気になる箇所にたくさん付箋を貼った絵本を使いながらお話してくださいました

───表紙を見るだけで「性」に対して自分がどう思っているのかに気づかされ、「性」と向き合う気持ちが自然にできる、そんな作りになっている気がしますね。

犬山:その流れでいうと、「自分を知ろう!」のページも本当にすばらしいんですよ! 女の子は、自分自身の性器を見たことがないという人も結構います。話をすることもタブー化されていますよね。私の世代は、ポルノや男性目線の意見のみの偏った形で性器を知り、「その正解と違う」ことで自分自身の体にネガティブなイメージを抱いてしまうという経験をしている人も多くいます。でもこのページの絵には、性器にはいろいろな形があること、人と違うことが当たり前なのだからコンプレックスを抱かなくてもいいんだよというポジティブなメッセージをすごく感じて、いいなと思いました。

:アメリカの性教育の絵本でも、自分の性器を鏡で見ている絵があることがあります。誰かと比べられたり、社会の性の価値観で自分の身体を見たりするのではなく、自分の目で自分の身体を知ること、そのままの自分が素敵なんだと思うことは、自分自身を好きになる第一歩かなと思います。

正しい知識をタブーなく伝える大人の姿勢が子どもの自己肯定感を育む

───絵本は、本題に入る前に「はじめに」と「この本を読むあなたへ」というタイトルで、作者のマティルドさんとティフェーヌさんからのメッセージがあります。女性の権利とエコロジーのための活動をしているマティルドさんと、助産師として女性が生きやすい社会のビジョンを作ろうという意志を持つティフェーヌさんが、なぜこの本を作ったのか。その思いが綴られています。

女の子のからだのしくみを知るための本だけど、あなたがどんな子でもいいし、性別が違う子が読んでもいいと、ポジティブなメッセージが

───内容は、大きく6つのトピックスに分かれています。

───最初にあるのが「女の子のからだの仕組み」を図で解説したページです。例えば「足のあいだを見てみよう」というページには、性器を真正面から見た絵があり、すべての部位の場所と名称が描かれています。初めて知る名前の部位もあって、大人でも発見がありました。

犬山:私は「恥ずかしい丘」と書いて「恥丘」というネーミングが嫌だなと感じて。

:そうですよね。医学用語なのに「恥」とか「陰」という漢字が使われているので、ネガティブなイメージを抱いてしまうと思うんです。こういうところは、いつか変えていけるといいなと思っています。

───口にするのは恥ずかしい言葉だというイメージは、漢字も一因がありそうですね。

犬山:あと、「クリトリス」には内臓のように大きな部分まであるということは、あまり知られていない印象があるので、可視化されているのが良いなと思います。そして補足の「クリトリスをこすりたくなるかもしれませんが、それは気持ちいいからです。クリトリスを触るのはプライベートなことなので、ひとりきりのときにしましょう」という書き方が、すごくいいなと思って。女性のマスターベーションは「悪いこと」と感じている人がいると思いますが、この絵本では行為そのものは否定せずに、「ひとりきりでしてね」という大切なメッセージも入っているので、私はここを読んで「この本はすごく信用できる」と思いました。

:自分の身体を触るのは、自分の身体に興味があるということなので、とても大事。「耳ってなんでこんな形なんだろう?」、「足の形っておもしろい」という感覚と同じなんですね。大人もそうですが、他人ではなく自分で、自分の身体のことを本当に知るというのは、こういうことのような気がするんです。

全体のうち、外から見えるのはほんの一部だということが、解説でよくわかります

───赤ちゃんがよく、自分の足をなめて確かめるのと同じことなんですね。

:このページは、身体の気持ちが良い場所として「クリトリス」という部位があって、身体の奥まであるなんてすごいよねという、軽い感じの受け止め方で良いと思います。まずは「気持ちいいんだよね。身体ってなかなかよくできているよね」というポジティブなメッセージを受け取って、あわせてプライベートな行為であることがわかるようになればいいと思うので、私もこのページはいいなと思いました。

「女の子らしさ」という偏見から子どもを守る言葉の宝庫

───2番目のトピックが「多様性とジェンダー」についてです。1番目のトピックは、からだの仕組みという観点から「性器」を説明していましたが、ここでは「人権」という観点から「性」について語られています。

犬山:このページは、小さな子に見せてあげたい大切なことが詰まっていますよね。まず、女の子はお淑やかで優しい子ばかりではなくて、いろんな子がいるんだよということが、わかりやすい絵になっていて。

身体の特徴だけでなく、心もそれぞれ違うもの。だから、ひとりひとりが唯一無二の存在だと絵が語っています

───表紙で話題に挙がった「自分を知ろう!」が身体の多様性だとしたら、こちらは心の多様性を表現しているようですね。

犬山:特にこの絵本で一番グッときたのが、この6行のコラムです。

犬山:「女の子の性器をもっているからといって、かならず女の子らしくなければいけないというわけではありません。」という文は、ジェンダーバイアス(性偏見)から子どもを守る言葉ですよね。この一文を読んだからといって、そこからすべて解き放たれるわけではありませんが、御守りになる一文だなと思いました。そして「あなたには、どんなふうになりたいかを自分で選ぶ権利があります。」と自分の権利が他人から尊重されるべきものだと明言した上で、最後に「同じように、ほかの人もたいせつにしましょう」と他人の権利を尊重しようと結んでいます。私はここが、この絵本の一番の肝だと感じました。

───なぜですか?

犬山:この後に出てくる「同意」という項目にも繋がってくるのですが、「自分で選ぶ権利」というのは、例えば性的に嫌な目に遭いそうになったら「NO」と言っていいということですよね。子どもがこの絵本を読んで、自分の身体をどうするのかは自分に権利があって、大切にされる権利があるんだと知ることができる。性教育とは、自分と他人の権利を知ることであるとよく伝わります。

───確かにそうですね。「権利」という言葉で最初に思い浮かぶのは、小学校6年生で習う「基本的人権(*)」です。でもそれと、この絵本に書かれている「自分の身体をどうするかは自分に権利がある」とは、なかなか結びつかないです。

(*)教科書では、@思想や職業の自由(自由権)、A男女平等、B参政権、C健康で文化的な生活を営む権利、D裁判を受ける権利、教育を受ける権利などが例に挙げられている。

:「人権」とか「権利」というと、法律用語や硬い言葉になりがちですが、実は私たちの生き方に関わること。それを考えるにあたって「性」というテーマはすごく具体的で、考えやすいんです。

───どうしてですか?

:「性」は生まれてから亡くなるまでの間、どんな形であっても一生関わりますよね。「性」について知ることも権利だし、身体を良い状態にする、心地良い状態にするセルフケアもそうです。この次のトピックに含まれている「生理(月経)」のページの、いろんな生理用品があるから自分が心地良い物を選ぼうというのも権利であり、セルフケアです。

日本の学校では女の子だけに生理の授業をするところもあるので、日本で育った男性の多くは「生理」や「月経」という名前を知っていても、女性の身体でなにが起きているのか、どんな現象なのかといった具体的な知識を得る機会がほとんどありません

───そうなんですね。私自身、家庭で性について話す機会がほとんどなく、「生理用品は隠すことが女性のマナー」と教わって育ってきました。ですから、実際に自分で生理用品を購入するまで、種類や機能についての知識が少なかったです。こんな風に絵本で、比較・説明しているものがあるとすごく便利だなと思いました。

犬山:私も「生理」のページは、「14歳の頃の私に見せてあげたい」と思いながら読みました。私は周りの人より生理が始まるのが遅くて、すごく悩んでいたんです。でも絵本でちゃんと「8〜16歳の間にきますよ」と書いてあって。「生理はきたないものではなく、あたりまえのこと。女の人のせいかつの一部なのです」と説明があるし、月経前症候群(PMS)についても触れていて。

───本当にそうですね。私は「月経前症候群(PMS)」という言葉自体、最近知ったばかりです。女性として生まれてきたからこそ、知っておくと役に立つ情報が簡潔にまとまっているのもすごいですが、そのベースに「これもあなたの権利である」というメッセージが込められているなんて、艮さんのお話で初めて気づきました。

:要は、自分には価値があり幸せになるのも権利、不安な状態ではなく自分で自分の生き方を選ぶというのも権利。そういうベースがないと、自分の身になにか起きたときに「私がこういう目に遭って良いわけがないんだ!」と意思表明をしたり、「嫌だ!」という拒否の声を挙げていいんだという意識に、なかなか繋がらないと思うんです。「性」は生きることに深く広く関わるし、誰もが当事者なので「自分事」として考えやすいんですね。

犬山:だから私も「同意」のページがすごく大切だなと思いました。特に響いたのがこの文章です。

犬山:したくないことは「いいえ」、してもいいと思ったら「はい」ということは子どもにもわかると思いますが、一度「いいよ」と言ったら後で変えちゃいけないと思ってしまう子って、けっこういると思うんです。

───子どもも大人も、後から意見を変えると「さっきはいいよって言ったじゃん!」と非難されることがあるので、後から「違う、嫌だ」と言うのは「自分が悪いんだ」という気持ちになってしまいます。その結果「自分が我慢すればいい」、「この場を穏便にやり過ごせればいい」などと考え、本当は嫌なことなのに仕方なく受け入れてしまうということは、日常生活の中でもよく起こります。

犬山:だから、さっきは「いいよ」と思ったからそう言ったけれど、やっぱりやりたくないと思ったら「いやだ」と言っていいという部分は、「同意」のページの肝ですね。

───おふたりの話で「性教育」が「権利」についての学びに繋がるということが、よく分かりました。

犬山:私も自分が性教育を習う当事者のころは、性教育は、名称を覚えたり病気についての知識を得るものだと思っていたんです。でも大人になり親になって、ゆくゆくは子どもに性教育をするとなったときに、自分にできるのか自信がなくて、改めて勉強しました。そこで「そもそも性教育は、なぜするのか」と考えたときに、自分の身体と相手の身体、そしてお互いの心に敬意を払うために必要なことだからと思ったんです。

───なるほど。

犬山:この『女の子のからだえほん』からも、同じ考えを感じました。でも「自分に敬意をはらう」ことは自分だけでは難しくて、信頼する他人から「あなたが大切だよ」と声をかけてもらわない限り、「自分なんて」とか「私は汚いんだ」と思いこんでしまうこともあります。

今の社会には「体型」や「乳房の大きさ」、「乳首の色」など、多様性を認めないバイアスや自分の身体に敬意を持てなくなる要因がたくさんあって、インターネットを通じて歪んだ性知識を簡単に見聞きできる状態です。だからこそ性教育の中で「どんな身体もすばらしい」そして「自分の身体に敬意をはらう、相手の身体にも敬意をはらう」ことの大切さを伝えるのが大事なんだと、母親になってから思うようになりましたね。

───「自分を知ろう!」のページを読んだ後、ほかのページを読み直すと、また違う気づきがあるような気がします。そう考えると、この絵本は一度読んだら終わりではなく、自分が気になったタイミングで気になった項目を読むという風に、折に触れて何度も読み返せるつくりだなと思いました。

:「性」について学ぶことも権利のひとつですから、「性教育を受ける権利」は一生をかけてずっと保障されなければいけないものであると、私は考えています。またこの絵本には、当然のように「多様性」があらゆるページに盛り込まれています。人種への配慮だけでなく、障がいのある方も描かれていますし、生殖補助医療の言及もあります。個人的にこの絵本の読み方として、ありとあらゆる「多様性」が描かれていることを見つけるのもおもしろいなと思います。

家庭での性教育はいつ、どんな風にしたらいいの?

───2022年度から絵本ナビのテーマページ『子どもに「性」を伝える絵本』へのアクセスも増加していて、関心の高まりを感じます。艮さんは、家庭ではどんな風に性教育に取り組んだらよいと思いますか?

:私が翻訳に関わった性教育の国際的なガイド「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(2009年、国連教育科学文化機関・UNESCO発表。日本語翻訳は2017年、改訂版2018年1月)では、5歳から始まって18歳以上までの性教育の内容や進め方がまとめられています。これとは別に『ヨーロッパにおける性教育スタンダード』(2010年、WHO欧州地域事務所とドイツ連邦健康啓発センター発行)というものがありますが、こちらは0歳からシニアまで、つまり一生なんです。

───世界的に見ても、ふたつの基準があるんですね。

:始めどきは難しいですが、私の中では生まれたときから。たぶんみなさんのイメージする「性教育」はすごく狭くて、大人が完璧に知っていて子どもに教えこむものというイメージが強いかもしれません。でも、子どもの身体を大切に扱うとか、お風呂に入って性器の洗い方や拭き方をおしえるとか、子どもが何歳であっても「見ないで、触らないで」という意志を示したら、その意見を尊重するとか。性に関わりつつ、「あなたを大事に思っているよ」という環境を整えるというのも、広い意味で性教育になります。

───あ、先ほどの「権利」の話ですね!

:そうです。だから始めどきは一律何歳からというのではなく、その子が性に関すること、例えば「赤ちゃんはどこからくるの?」という質問をしてきたタイミングかなと思います。そして、その準備として、生まれた時から「あなたを大事に思っているよ」という環境を作っておく。そうすると、子どもも自分の意志を発信しやすくなります。

───親が子どもの話に耳を傾けないと、「親に話しても聞いてもらえないから」と、子どもがだんだんと話しかけなくなってきますよね。その逆で、普段から子どもの話をきちんと聞いていると、子どもから親に話をしやすくなりそうです。

:そうやって、まずは親子で言い合えるような関係を作ることから始めたらいいのかなと思うんです。よく「うちの子は小学生なんですが、もう手遅れですか」とおっしゃる方もいるんですが、手遅れなんてありません。だからといって、そこから張り切って一気に教えるのも違うかなと。性はすごくプライベートなことでもあるから、生活の中で折に触れて、それとなく進めるのがいいんじゃないかと思いますが、犬山さんはいかがですか?

犬山:私の中では、家庭で性教育をするときの軸みたいなものが2つあります。1つは「子どもの身体の権利を尊重する」ことに親が向き合う。話が通じるようになったら、「抱っこしていい?」と子どもに聞いて「いいよ」という返事をもらって抱っこするようにするなど、同意を大切にしています。同意をとるようにしても、抱きしめる回数はちっとも減りませんし、しょっちゅう抱きしめています。

───それは、すぐにでも始められそうですね。

犬山:もう1つが艮さんの話にもあった、子どもが疑問に思ったときに誠実に伝えることです。「なんでそんなことを聞くの」ではなく、他のことと同じように「これはこういう仕組みで、こうなっているんだよ」とリアクションしようと。

:いいですね。子どもから質問されたら「きたー!」と思うのではなく、「すごいね。よく気づいたね」と大人がポジティブなリアクションをするのが良いですね。「そんなことばかり興味を持って」というように大人の態度がネガティブになると、子どもも性に対してネガティブな印象を抱くようになってしまいます。適当にごまかすのではなく、もしわからないことがあれば「一緒に調べよう」ということでも良いのではないかと思います。

犬山:そうですよね。娘は保育園に通っていて、他人との生活が0歳から始まっています。やっぱり家族以外の人と生活するので、プライベートゾーンについては話がわかるようになるタイミングから、子どもから聞かれる前に少しずつ話をしていました。

───犬山さんは、『女の子のからだえほん』をどんな風に活用するのがよいと思いますか?

犬山:押しつけるのではなく、絵本が自然に家に置いてあって、娘の興味が出てきたときに取り出して「こんな良い本があるよ」と伝えられたらいいなと思いました。この絵本は、フランス人の著者のおふたりに加えて、艮さんというプロの知見が入った、ポジティブでわかりやすく噛み砕いた知識を発信したものなんですね。例えば性器だけではなく、「女の子は男の子を好きになってもいいし、女の子を好きになってもいい」という性別とジェンダーの話をするときにも、この絵本がすごく味方になってくれると思います。

───人権も含めた性教育をそれぞれの家庭で取り組むのはすばらしいことだと思うのですが、そうなるとやっている家とまだ始めていない家では、子どもの意識にも違いが出てくると思います。例えば、女の子がおてんばだと「女のくせに」と言われたり、お人形遊びが好きな男の子が「男のくせに」と言われたり……。

:子どもは4、5歳前からジェンダーバイアス(性偏見)をいっぱい浴びているので、そういう子ども同士のピアプレッシャー(同調圧力)はけっこうあるんです。そのときに「全然変じゃないよね」とか「なんで変だと思ったの?」と話をして、大人を含めた関係者全員で、いかにジェンダーバイアスを揺さぶったり、一緒に考えたりできるかにかかっていると思うんです。

───大人が疑問を投げることで、改めてその子自身が「どうしてそう思ったんだろう?」と考えられたり、「他の人は自分と違う考え方をしているんだ」と気づいたりできる環境を作るということでしょうか。

:そういう環境を整えるには、保護者と保育園・幼稚園の先生とも連携が必要になります。ですから「子どもがこんな風に言われたようなので、何か園でも取り組みをして欲しいです」と、保護者として保育士さんや先生に伝えることだって、広い意味での性教育の連携かなと。そう考えると、いろいろやれることはたくさんあるのかなと感じます。

「手遅れなんてない」大人も 『女の子のからだえほん』で学ぼう

───『女の子のからだえほん』を含めて、ここ数年「性」に関する絵本の出版が多くなっていて、社会全体の意識も少しずつ変わってきていことを感じています。学校でも家庭でも古い性教育を受けてきた親世代も、ニュースタンダードを学ぶ姿勢が必要でしょうか。

:もちろん、そうですね。今の大人は、性について学ぶ権利があまり保障されていない時期に大きくなっています。だから子どもの育ちに関わりながらでも良いですし、お子さんがいるいないに関わらず学んで欲しいなと思います。きっと犬山さんのように、「もうちょっと若いときに知っておけば」ということもたくさんあると思いますが、そういう苦い思いなんかも後の世代に伝えたりしながら。やっぱりまずは、大人の学びが必要かなと思いますね。

犬山:私自身は、「自分の身体を大切にしなさい」とは言われて育ってきたんですが、正直、その言葉が響いていなかったんです。でも自分の権利を知って、やっと腑に落ちたんですね。そういうところを伝えたいので、私も親として学ばないとという気持ちが強くあります。

───「手遅れなんてない」という艮さんの言葉の通りですね。

犬山:加えて、子どもが自分の身体のことや性について悩んだときに相談されたら、子どもにとって親の自分が安全基地になれるように、学んでいきたいなという思いもあります。この絵本に書かれている「同意」を例に、「自分の身体をどうやって尊重し、守っていくのか」というところを伝えたいなと思いました。

───「NO」と言える心構えと同時に、自分の身を守る方法を知ることも必要ですね。

犬山:私は、電車で痴漢に遭ったことを大人に相談できなかったんです。他の人に相談するにも、「自意識過剰なんじゃないの?」と自分が責められるような空気があったから言えなかったし、恥ずかしかったし。でも権利を含めた性教育というものが、学校でも家庭でも自然とできていたら、被害に遭ったときのケア方法も変わってくると思うんですよ。被害者である子どもを責めるのではなく、「言ってくれてありがとう」という言葉からちゃんと始められるようになるとか。そんな安全基地になるために、学んでいきたいですね。

:本当に、性被害や性暴力に遭ったときの大人の対応に問題があると思うことがいっぱいあります。ある大学で性のことを話した時に、かなりの学生が痴漢にあった経験を書いてくれたんです。さらに被害にあっても誰にも相談できなかったという人がとても多く、相談した人の中に「触られるうちが華だよ」と言われた人もいて、問題は深刻だなと感じました。ですから、大人の学びはすごく大事だなと思います。

───女性だけでなく、男性にぜひ学んで欲しいです。

:加えて女の子の場合は、妊娠・出産と必要以上に繋げるような生理の教育をされてきたかなと思うんですよね。これから生理が始まる子に対して、子宮を「赤ちゃんのベッドだよ」と教えるんです。本来「産む、産まない」は選択すべきなのに、産むことと繋げて「だから身体を大事にしなさいね」というメッセージって、そこに肝心の本人がいないんですよね。

犬山:私もそう思いました。今の日本の性教育では「女の子は子どもを生む身体」という説明が主流だと思うんです。でもこの絵本にはちゃんと「親にならなくてはいけないということはありません。それは、おとなになってから自分で決めればいいのです」と書いてあって。『女の子のからだえほん』には、これまでの性教育の教科書にはなかった本質的に大切な言葉が、たくさん入っています。読みやすいのはもちろん、読んだ後に「自分事」として性について考えられる絵本だなと実感しました。

:繰り返しになりますが、やっぱり「自分の身体は自分のもので、大事なもの」というメッセージが家庭や学校、社会などいろいろな場面であれば、何かあったときに「私は尊重されるべき存在だから、こんな目に遭っていいわけがない」と思う土台になると思いますね。

犬山:私がしている児童虐待防止の活動に絡めてですが、現在「子ども基本法」の法案が今期の国会に提出されました。その中に「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参画する権利」「愛される権利」「最善の利益の実現」という、6つの大きな柱があります。性教育は「生きる権利」、「守られる権利」、「愛される権利」に直結すると思うので、大人にも「子ども基本法」のことを理解してもらいたいなと思います。同時にこういった本で、子どもについて、女性のからだについて学ぶ動きが、加速するといいなと感じています。

「相談窓口」のページを活用して欲しい

:最後にアピールしたいのが、この絵本の最後に設けた「相談窓口」というページです。ここには、現在日本にある性についての相談機関(2022年4月現在)を掲載しています。日本は、相談機関にコンタクトを取るハードルがすごく高いですよね。「信頼できる大人に相談してください」と言われても、具体的にどんな相談機関があるのか、身近にあるものなのかが曖昧だったりします。困った時に相談することや話すことは当たり前のことだということ、つまり権利なんだという理解が十分ではないように思います。同時にその権利を守るための社会のしくみを作ること(ここでは相談の受け皿を作ること)は、本来は国や行政の責任でもあります。

───そうですね。

:また、親から性暴力を受けているケースもありますから、まずは自分にとってこの人になら相談できそうだという人を数えられるだけ数えてみてください。その人たちに相談したり、相談窓口を活用するのもひとつの方法です。

───たくさんのためになるお話、ありがとうございました。最後に、絵本ナビユーザーにメッセージをお願いします。

:『女の子のからだえほん』を含めて、国内外に優れた性や人権の絵本があります。ぜひいろいろな絵本を手に取って、「この絵本のここを参照しよう」とか「あの絵本はここがいい内容だ」というように、絵本の使いどころが見極められるように、大人も絵本を通じて性や人権のことを学んで欲しいし、絵本に限らずいろんな形で学び続けてもらえたらうれしいです。

実はこの5年くらいで、乳幼児の性教育への関心がとても高まっているなと感じているんですね。研修もすごく多くて、中には切羽詰まった様子で相談に来られる方もいらっしゃいます。よくよく話を聞くと、「絶対子育て失敗できない」とか、「少しでも早く性教育をしなきゃ」という、プレッシャーが強まった結果だと感じることもあります。今、子ども向けの商業主義的な性教育のコンテンツとかもすごく増えていて、高価なものもたくさんありますが、『女の子のからだのえほん』は1700円で、内容も充実しております。性の学びはだれもが当事者なので、学ぶと楽しいし、学ぶことでホッと安心できることがきっとあると思います。人権をベースにした性教育は、競争に勝つことや、「条件付き」で大切にされることではないことに気づかされますから、このような気持ちになるのではないでしょうか。「人権」ってすごく遠い言葉のように思えるかもしれませんが、自分に関わる権利について学ぶこと。それは一生の力になるので、いつからでも学べます。この絵本は、その学びに役立つ1冊に確実になると思います。

犬山:この記事を読んでいる方は、私と同じ立場の方もいらっしゃると思います。たぶんみなさんと同じように、私も5歳の娘を育てながら、「どうしたらいいだろう」と日々悩んだりしていますが、こうやって話をじっくり聞いたり、絵本を読んで知識を得ることで、私自身も子どもに対して冷静に対応できるようになってきているのかなと、少し自信がついたように思いました。

私がこの絵本を、自分が小さいころに読んでおきたかったと思ったのは、「自分を尊重する」ことの先にある「この人は、私のことをちゃんと尊重してくれる人かしら」という目線が知りたかったんですね。やはり人と付き合う中で「私もあなたのことを尊重するから、私を尊重してくれる人とお付き合いしていこう」という学びが、若いころに欲しかったなと。ですから『女の子のからだのえほん』を読むといった性教育を通して、人を尊重をすること、尊重されることが当たり前であるっていう感覚が備わってくれるといいなと感じました。

───ありがとうございました。

『女の子のからだえほん』を読んだ絵本ナビスタッフの声をご紹介します

うちは息子ひとりですが、女の子の身体のことは知っていてほしいなと思いながら、生理のことも曖昧に話すだけになっているので、この絵本を置いておくのもよいかなと思いました。

私は、年齢とともに生殖機能が落ちていくことや、不育症についての知識がなく、もっと簡単に授かるものだと思っていたんです。だからこの絵本のように、妊娠について若いうちから知りたかったと思いました。

(スタッフK)

何というか自分自身も救われる気持ちになった気がします。

こういったアプローチの本があるのは嬉しいですね。

(スタッフN)

取材・文:中村美奈子(絵本ナビ)                      
撮影協力:パイ インターナショナル、艮香織、株式会社 SLUSH-PLE.

※取材はリモートで行いました。

艮香織さんが携わった絵本

艮さんは『女の子のからだえほん』のほかにも、「性」に関する絵本の制作を行っています。その一部を紹介します。

犬山紙子さんの本

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