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出版社エディターズブログ

2023.07.11

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第69回青少年読書感想文全国コンクールに『スクラッチ』が選出! (あかね書房)

第69回青少年読書感想文全国コンクール《課題図書・中学校の部》に
あかね書房『スクラッチ』(歌代朔)が選出されました。

コロナ禍に傷つき、奮闘し、翻弄された中学生たちの心揺さぶるストーリーです。

ぜひこの夏の一冊に!!

  • スクラッチ

    みどころ

    「もういやだ―――!!! コロナふざけんな―!!」
    すぐに気持ちを外に表す鈴音(すずね)と、めったに取り乱すことなく、平常心を常としている千暁(かずあき)。バレー部のキャプテンの鈴音は、コロナ禍で「総体」(総合体育大会)が中止となり、憤りを隠せません。一方、美術部部長の千暁も出展する予定だった「市郡展」の審査が中止になってしまいます。平常心で、大きなパネル絵の作成に黙々と取り組む千暁ですが、絵を見た顧問の仙先生に「君はこの絵を描いていて楽しかったか?」と問いかけられ、初めて自分の絵がわからなくなってしまいます。

    ある日、鈴音は千暁の描きかけのキャンバスを目にします。さまざまな運動部のメンバーがスポーツをする姿を描いたその絵は、はっとするほど美しいあざやかな色づかいと躍動感にあふれていて、鈴音は感動します。真ん中でバレーのアタックをしているのは、多分、私。けれどもその直後、鈴音は不注意で絵に墨を飛ばしてしまい……。

    コロナ禍という状況の中、正反対ともいえる性格の、千暁と鈴音の思いが時に交錯しながら、二人の語りで物語が繰り広げられていきます。そこにクラスメイトの文菜や健斗の悩みが加わり、中学三年生の夏が展開されます。

    注目したいのは、コロナによって引き起こされるさまざまな出来事にとまどいながら、自分の本当の気持ちを模索したり、周りの友だちや先生や家族の気持ちをあれこれ慮る登場人物たちの姿。それぞれが関わり合う様子に素敵な場面がたくさんあります。とくに素敵だと感じたのは、千暁と、美術部の幽霊部員健斗とのやりとり。お互い別世界の人間だと思っていたふたりが、実はお互いのことを「すごい」と思っていたことを知り、ふつふつと笑い合いながら心を通い合わせていく場面はとても優しく、爽やかです。また、不思議なキャラぶりを発揮している顧問の仙先生が、自分らしい絵を見つけるために奮闘する千暁をそっと見守り、何気なくサポートする数々の場面も大きなみどころです。

    本書が刊行された2022年の夏は、未だ出口の見えないコロナとの共存生活が続いています。しかしこの物語がしっかりと読者に見せてくれるのは、行事やイベントが中止になろうとも、マスクが外せなくとも、私たちの日常は消えてしまったわけではないし、薄まったわけでもないということ。また、コロナであろうとなかろうと中学三年生の登場人物たちが進路に悩んだり、自分らしい在り方を探し求める姿は、読む私たちを大いに励ましてくれるのです。

    千暁が真っ黒なキャンバスに「スクラッチ手法」で力強く刻んでいった先に見つけるひとすじの光――。その光のように、目をそらさなければ必ず前に進める、希望が見えてくるということを提示してくれる本書は、ふと立ち止まってしまった時にも私たちの背中を押してくれるにちがいありません。

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