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とよたかずひこさん絵本づくり40年 記念連載

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絵本作家・とよたかずひこさんの絵本づくり40年を記念した連載も、今回が最終回。
ラストは、とよたかずひこさんにお話をうかがいました。

この書籍を作った人

とよた かずひこ

とよた かずひこ (とよたかずひこ)

1947年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。主な絵本に『でんしゃにのって』などの「うららちゃんののりものえほん」シリーズ、『バルボンさんのおでかけ』などの「ワニのバルボン」シリーズ、『ブップーバス』などの「あかちゃんのりものえほん」シリーズ(以上アリス館)、『やまのおふろやさん』などの「ぽかぽかおふろ」シリーズ(ひさかたチャイルド)、『どんどこ ももんちゃん』[第7回日本絵本賞]などの「ももんちゃん あそぼう」シリーズ、『おにぎりくんがね‥』などの「おいしいともだち」シリーズ(以上童心社)がある。紙芝居に『でんしゃがくるよ』『もみもみおいしゃさん』『ぞうさんきかんしゃ ぽっぽっぽっ』[第56回高橋五山賞](以上童心社)などがある。

絵本づくりは定年のない仕事。体が許す限り、描き続けたいと思っています

───絵本づくり40周年、本当におめでとうございます。絵本作家としてデビューされたときは、これほど長く絵本を描き続けているご自身の姿をイメージされていましたか?

ありがとうございます。芸能人じゃあるまいし、今更デビューなんていわれても気恥ずかしいだけです。画業40年もそぐわない。それまでもフリーのイラストレーターをやっていましたから、絵本として商業出版された1983年を起点とするのが自然かな、と。そうすると確かに絵本づくり40年になります。それも童心社の販売の方からの問いかけで気づいただけで、自分で年数の勘定なんかしていません。

絵本づくりは定年のない仕事、なりわいです。でも、読者から飽きられたらそこが潮時。それまでは体が許す限り、描き続けたいと思っています。なかなか殊勝なじいちゃんでしょう(笑)。

───すでにいろいろなインタビューでもお答えされているかと思うのですが、はじめて絵本を描こうと思ったきっかけを教えてください。

子育てです。長女が幼稚園に通いだして、園を通して個人購読していた月刊保育絵本「こどものとも」。ほら、ここにある長新太さんの『ごろごろにゃーん』。たまげました。最後まで“ごろごろにゃーん”だけですからね。何だこりゃと思いながらも声に出して読んでみるとなんとも心地よい。ソフトカバーでホッチキスで止めてあるだけ。定価220円! 絵本はハードルが低いぞ(笑)。とよたのオトーサンは完全に勘違いしてこの業界に飛び込みました。

───とよたさんが子どもの頃、絵本を読んだ思い出はありますか?

ぼくは団塊の世代で1クラス60人で10クラス同級生が600人もいる仙台の小学校が集団生活の第一歩でした。有象無象の世界で、絵本を読んでもらうなどという情操教育なぞ受けずに大人になってしまったんです。ですから子ども向けの絵本は稚拙なものという勝手な思い込みがあって手にしていませんでした。

それが我が子に寝る前に読まされて、はじめて正面から絵本を眺めることになりました。『ぐりとぐら』や『だるまちゃんとてんぐちゃん』が特に好きで何度も何度も読まされました。『ぐりとぐら』の有名なシーン、おいしそうなかすてら、というところの絵に、枕を並べて寝ている娘が手を延ばして食べる真似をするんですよ。びっくりしました。おいおい、こんな絵にだまされてはいかんぜよ(笑)――この程度のおはなしと絵だったらオレでもつくれる、オトーチャンがつくったる――大いなる錯覚でした。そんな甘い世界ではないことは後で思い知らされるのですが、正直そこが出発点でした。

とよたさんがお子さんと楽しんだ絵本

───とよたさんのデビュー作は1983年に発売された『ぼくはやっぱりとりなんだ』。この絵本が出版されるまでにはいろいろ苦労があったのでしょうか?

オレ、おおむらゆりこさんや、かこさとしさんより上手に描けているはずだ(笑)。勝手に思い込んで出版社に持ち込み、ボツ、ボツ、ボツをくらうわけです。当然です。絵本の絵は上手い下手というレベルで括るものではないのです。読み継がれる絵本はそこら辺を凌駕した“作品のちから”というものがあるんでしょうね。それは一体何だろうと今もって模索中ですよ。

紆余曲折後、やっと『ぼくはやっぱりとりなんだ』が店頭に並びました。本屋さんに置いてあるのを見てうれしかったですよ。本を抱いて寝るほどのことはしませんでしたが、その気持ちはわかりますね。

───とよたさんの絵本の魅力のひとつは、ちいさい子に向けた絵本づくりにあると思います。一般的に赤ちゃん絵本や小さい子向けの絵本を作ることは物語絵本を作るより難しいといわれていますが、とよたさんは小さい子に向けた絵本を作るときに難しいと感じることはありますか?

ひとりの作家が扱いきれる範囲なんかたかが知れている。じょうぶな歯でかみ砕き、胃袋で消化し、そして作品として昇華させるんです。おのれが血肉化したものでなければなかなか表現できないもんなんです。物語絵本を作ることを得意にしている作家にはそのジャンルをおまかせし、自分は手を出さない。しかけ絵本、ことばあそび絵本、幼児に確実に受けるうんち、おしっこのたぐいの絵本はやらない。それとCMの仕事はやらない。一種の棲み分けと考えてください。

むかし幼年童話作家の森山京さんから「とよたさんの作品は赤ちゃんの“呼吸”に合っているよね」といわれたことがあります。勇気づけられました。いま質問された、赤ちゃん絵本を作るのは難しいというのが共通認識のようですが、理屈で考えていても生み出せない。それが呼吸だとしたら何とかやっていけるかもしれない、そんな風に感じています。

感想を伺えない(笑)得体の知れない小さな人たちに向かっていく魅力でしょうか。

───赤ちゃん絵本や小さい子に向けた絵本を作るとき、とよたさんの中で決めていることや、こだわりはありますか?

赤ちゃんや幼児向け絵本の真の読者は、まだ字が読めません。だれか大人が読んであげなければならないわけです。そうであれば赤ちゃん絵本といえども読み手が心地よく楽しく読んでくれれば、少々難しい事象であっても乳幼児に伝わるのではないかと思うんです。ダミーづくりは何度も音読し、そのダミーを机の中にしまって寝かせ、しばらくたってまた見直すという作業を何度もしています。文章でいう推敲を重ねるということですね。

40周年のごほうびに欲しいものは……?

――とよたさんが生み出すキャラクターはみんなかわいくて。でも、かわいいだけではなく、ワニやサボテン、おばけ、金魚、お風呂など、大人が意外に感じるキャラクターをたくさん生み出されていらっしゃいます。今まで絵本に出てきたキャラクターの中で、ご自身でも意外だな、このキャラクターを絵本に出すとは思わなかったと感じたキャラクターはいますか?

まもなく喜寿を迎えるじいちゃんが描く絵をかわいいといってもらえるのはとてもうれしい。若いころは“かわいい”に抵抗があったんだけど、今は素直にうれしい。

キャラクターはいたずら描きから立ち上がってくることが多いかな。動物はもちろん、ものにも人格があるというのを自然に表現できるんです。ちゃんと目的をもってキャラクターを構成していますから。そこから外れて意外なものが出てくることはありませんね。絵空事を書いていながらも常識を踏まえて、説得力を備えていないと成り立ちません。

――今回、とよたさんの絵本の担当編集者の皆さんにお話しを伺ったのですが、みなさんから聞く、とよたさんのエピソードが本当に素敵で。どなたに対しても分け隔てなく接していらっしゃるお人柄を感じることができました。全国を飛び回っている講演会でも、大人も子どももみんながファンになってしまうとよたさん、人と接するときの秘訣を教えていただけますか。

講演会といってもぼくの場合は親子一緒のおはなし会。乳幼児の集中力なんて3分ももちませんから(笑)。さあ、この子たちとの90分、どうする? 楽器を奏でたり、歌を歌ったり踊ったり……ぼくは何もできませんからね(苦笑)。紙芝居と読みがたりだけでよくここまでやってきたなと(笑)。お父さん、お母さんに感謝ですよ。本人は連れてこられているだけで、自分の意志で来ているわけじゃありませんから。

それからぼくは“場”をつくることを大切にしています。時間が許せば会場設営づくりにも自分もかかわる。ゴザを敷くとか、パイプ椅子を並べるとか……。結果的に場があたたまって当方がやりやすくなるんです。お客さんであるお子さんたちをこちらが迎える。前の方に座ってくれた彼らと雑談をしながら友達になって、ますます場があたたまります。弟、妹と一緒についてきてくれた小学生のおにいちゃんから、紙芝居に鋭いツッコミが入ったりして、じいちゃん必死です。「これは2歳児さん向けに創っているんだ!」なんてムキになって言い訳している自分がいます(笑)。

おはなし会の様子(興文堂 平田店)

――ひさかたチャイルドの佐藤さんから、「とよたさんはラジオで音楽を聴きながら制作されている」と教えていただいたのですが、どんな音楽を聴くのが好きですか? また、ラジオを聴くこと以外に、絵本を作っているときのご自身のルーティーンがあれば教えてください。

そもそも仕事場にはラジオしかありません。自宅がある多摩ニュータウンから1時間かけて高田馬場まで通勤しています。電車内で朝刊を広げてラテ欄をチェックしているじいさんはぼくぐらいでしょう。文章を書く、本を読むときは無音状態にしていますが、絵を描いているときは音楽ざんまい。何でも聞きます。ときたま午前11時NHK・FM「邦楽のひととき」長唄、地歌なんかまで聴いちゃいますよ(笑)。 お昼は奥さんがつくってくれる弁当です。これにつきます。男子高校生が使っているような弁当箱に、ご飯とおかずを詰め込んでギュッ。最高です。ときたま、いただきもののリンゴやミカンなど丸ごと入っていて、通勤時のリュックの中は食い物だけでいっぱいです。

――40周年を迎えたご自身にごほうびをあげるとしたら、何をしたいですか?

ごほうびといえるかどうか。“時間”をください。最近、絵本1冊を仕上げるのにとても時間がかかるようになりました。鼻歌まじりでまるで一晩で仕上げたような軽やかな作品をつくりたいのに、現実はそうはいきません。「もういっかい」と小さな人から繰り返し所望されるような絵本づくりを課題にして、そこにたどりつくまでの試行錯誤、推敲時間が増えたといい方に解釈しています。ごぼうびには時間をください。

――時間……誰もが望むものですね。40年を迎え、これからますます楽しい絵本を生み出し続けられることと思います。今後描いてみたい作品のテーマやキャラクターはありますか?

いま手掛けているシリーズを深化させていきたいです。そして創作に行き詰まるとここに戻るんです――おじいちゃんが縁側で日向っぼっこしながら、孫をひざの上に乗せて読んであげるような絵本をつくる――与太話です!(笑)。

もうひとつは切手。ぼくはスマホもケータイも持っていないから、外界との接点は電話とファックスとお手紙だけ。だから切手の買い置きがいっぱいある。その中に自分の絵の切手があったらうれしいなあ。

今回のインタビューの補足部分も手紙で届きました。とよたさんの絵の切手、夢が叶ったら素敵ですね

――とよたさんの絵本のキャラクターの切手、欲しい人はたくさんいると思います! 実現することを心から願っています。今日は楽しいお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

とよたかずひこさん絵本づくり40年 記念動画公開中

文・構成/木村春子

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