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インタビュー
2024.07.23
夏休みの自由研究のテーマに「恐竜の進化」はいかが? 『鳥は恐竜だった 鳥の巣からみた進化の物語』(アリス館)は、長年「鳥の巣研究家」としても活動してきた絵本作家・鈴木まもるさんの考察をまとめた絵本です。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、インタビューを紹介します。
(インタビュー:加治佐志津、写真:有村蓮)
この人にインタビューしました
1952年、東京都生まれ。東京芸術大学中退。「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)で赤い鳥さし絵賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞を、『ニワシドリのひみつ』(岩崎書店)で産経児童出版文化賞JR賞を受賞。主な絵本作品に『ピン・ポン・バス』『がんばれ!パトカー』(偕成社)、『せんろはつづく』『つみきでとんとん』(金の星社)、エッセイに『バサラ山スケッチ通信』(小峰書店)などがある。また鳥の巣研究家として 『日本の鳥の巣図鑑 全259』(偕成社)、『鳥の巣いろいろ』(偕成社)、『鳥の巣の本』『世界の鳥の巣の本』『ぼくの鳥の巣コレクション』(岩崎書店)、『鳥の巣みつけた』『鳥の巣研究ノート』(あすなろ書房)などの著書があり、全国で鳥の巣展覧会を開催している。
——鳥の巣研究はいつ、どのようなきっかけで始めたのですか。
子どもの頃から動植物が好きでしたが、実際に鳥の巣を目にするようになったのは、静岡の伊豆の山で暮らし始めた35年ほど前からですね。家の周りに木を植えていたとき、使い終わった古い鳥の巣を見つけたんです。かわいいなぁと思って家に持ち帰りました。
その後もときどき鳥の巣を見つけては、家に持ち帰るようになったんですが、鳥の巣ということはわかっても、何の巣かわからない。図書館に行っても、鳥の図鑑はたくさんあっても、鳥の巣の本はないんですね。鳥の写真集にも鳥の巣は載っていない。鳥の巣は、鳥が生まれる一番大切な場所なのに、それを扱った本がないのはなぜだろう、と不思議に思いました。
——今では鈴木さんが手がけた鳥の巣の本が書店にも図書館にも並んでいます。
鳥類学者の方は世界中にいらっしゃって、たとえばメジロを研究されている方なら、メジロの巣をご存じなんですね。ヒヨドリを研究されている方はヒヨドリの巣を知っている。でも、鳥類学者の方々は巣を見ると、卵がいくつ生まれているかとか、その地域に巣がいくつあるか、10年前と比べて巣が増えたか減ったかなど、数を数えること、要するに国勢調査的なことに重きを置くことが多いんですね。
それはそれですごく大事なんですが、僕みたいに、かわいいなぁとか、どうやって作るのか、という造形的な視点で見る方はほとんどいません。それぞれの感じ方の違いなので、どっちがいい悪いという話ではないんですけどね。
それで、僕は僕なりに研究してみることにしました。何の巣かわからないときは、専門家の方に話を聞きに行ったり、山階鳥類研究所に行ったりしました。さらに、海外の鳥の博物館や外国の学者さんにも何度も会いに行きました。海外に、偽の入り口のついた巣とか、羊の毛でできた巣があると聞けば、アフリカやニューギニア、ボルネオ、コスタリカなどなど現地に足を運んで、巣とは何かということを自分なりに調べていきました。
最初は収集した巣を実際に見てもらいたくて、鳥の巣の展覧会を開いたんですが、展覧会だと場所が限られてしまって、見に来られない人もいますよね。僕は絵本を描く人間なので、それなら鳥の巣の絵本を描こう、と。
——アトリエにはたくさんの鳥の巣があるそうですね。
僕が日本や海外で集めたり、外国の方からいただいたりした巣です。日本は気候が比較的穏やかで、肉食獣もあまりいないので、おわん型の巣か、せいぜい球体の巣があるくらいで、バリエーションが多くないのですが、海外だともっと過酷な環境だったり、木登りが上手なサルがいたりするので、そんな中で卵やヒナの命を守ろうと、より工夫した巣が作られています。知れば知るほど、もっと知ってほしくなって、気づいたらコレクションが増えていました。
——そんな鳥の巣コレクションの中でも、鈴木さんが特に注目したのが『鳥は恐竜だった 鳥の巣からみた進化の物語』の冒頭でも紹介されている、キムネコウヨウジャクの巣なのですね。
キムネコウヨウジャクは東南アジアの鳥なんですが、ヤシの葉を編んだかごのような形の巣を作ります。同じくハタオリドリ科の鳥はアフリカにたくさんいて、編み方や葉っぱの幅など多少違いはありますが、巣は基本的に似た形をしています。
サルから卵やヒナを守るために、細い枝先にぶら下げるように巣を作るんですが、その巣の形が、妊婦さんのおなかとそっくりなんです。なぜキムネコウヨウジャクの巣は、人間のお母さんのおなかの形と似ているのか。どうしてこんな形の巣を作るようになったのか……そんな疑問から、鳥の巣作りについて調べていくうちに、どんどん時代を遡って、恐竜の巣作りにまでいき、恐竜から鳥への進化へと繋がっていきました。
——今いる鳥の巣から、恐竜の巣について考察されていますね。
大型恐竜の巣の化石はあっても、20cmくらいの小型恐竜の巣の化石は見つかっていません。それで、今いる鳥の巣から考えてみることにしたんです。たとえばヤマドリやキジのような、茂みに巣を作る鳥。小型の恐竜も、外敵から卵やヒナを守るために茂みに巣を作ったのではないか。カモや白鳥などのように水辺の茂みに巣を作った恐竜もいたかもしれないし、ワシやサギの仲間のように、外敵から襲われないよう、木の上に巣を作る恐竜も当然いただろうと。
恐竜が鳥へと進化する中で、どうやって空を飛べるようになったか、その方法について、恐竜学や鳥類学の研究者の間では、主に3つの説があります。倒れた木を駆け上がったり、坂道を飛び降りたりするうちに飛べるようになったという説と、地上を走りながら飛び跳ねているうちに飛べるようになったという説、そして、木の上から飛び降り、滑空するうちに飛べるようになったという説です。
それぞれの説に反論があって、100年ほど論争が続いているそうですが、巣という観点から見ると、どれかひとつが正解というわけではなく、巣のある場所によってそれぞれの飛び方に繋がっていったのではないかと、僕は思うんです。藪の中、水辺、木の上に安全な巣を作る場所を求めた小さな恐竜たちが、それぞれの場所で身を守るために羽ばたくようになり、飛ぶための筋肉がついていったのではないか、というのが僕の考えです。
——6600万年ほど前、巨大隕石の衝突により、地球上の生物の約75パーセントが死滅したとされますが、そんな過酷な状況下で鳥が絶滅せず生き抜いたことについても、巣作りと絡めて考察されていますね。
最悪の状況下で、食べるものがなくなった鳥たちは、栄養分の少ない卵を産み、ヒナは目も開かず羽も生えていない未熟な状態で生まれてきたと考えられます。未熟なヒナを守るため、親鳥は風の当たらない木の裂け目や“うろ”など、穴の中を巣にしたのではないでしょうか。今いる鳥だとインコやオウムの仲間ですね。サイチョウなどは、穴の入り口が広すぎると、フンで固めて穴を狭くします。
その次の段階として、キツツキのように自分で穴を開けて巣を作る鳥、さらにはツグミなどのように枯草などを利用して、自分の体にフィットした巣を穴の外の枝の間に作る鳥も出てきたんです。4000万年ぐらい前には、小さな鳥たちが爆発的に増えていることが化石からわかっていますが、その原因はわかっていません。僕は小さな鳥が細いくちばしをたくみに使って巣作りの技術が上がり、いろいろな場所に様々な巣を作ることができるようになったからだと思います。
——恐竜の時代から現在まで、鳥たちは多様な巣を作ることで生き延びてきたのではないか、と。
キムネコウヨウジャクの巣の形が妊婦さんのおなかと似ているのはなぜか、という疑問が、ここまで壮大な進化の物語に繋がるとは、自分でも思いもよらなかったのですが、7、8年かけて考察し、絵本という形にまとめました。僕が世界中の鳥の巣を集めてきたのは、鳥の巣の変遷を通じて、環境の多様性とともに、恐竜から鳥への進化の物語を知りたかったからなのかも、と今では思っています。
——今後も鳥の巣研究は続けていかれますか。
鳥の巣は、鳥が卵を産み、ヒナを育てる大切な場所。だから、その大切さや不思議さ、美しさをこれからも伝えていきたいですね。
絵本作りも鳥の巣作りも、小さな命を育てるという点は同じなんですよ。それは他の職業も同じで、パン屋さんがパンを作るのも、音楽家が音楽を演奏するのも、お医者さんが病気を治すのも、どれも原点をたどると、命のためというところに繋がってくる。自然の形で、意味のないものはありません。この絵本をきっかけに、鳥だけでなく鳥の巣にも興味を持ってもらえたらうれしいです。
みどころ
長い木の枝の先っぽから、ぶらん、とぶら下がる、なんともふしぎな形のなにか。オシャレなデザインの花瓶? モダンアートなツボ? いえいえこれは、小さくて黄色い鳥、キムネコウヨウジャクの巣!
それを見て、著者の鈴木まもるさんはこう思いました。
まるで、妊婦さんのおなかみたいだ、と。
「キムネコウヨウジャクの巣が、なぜ妊婦さんとにているのか?」
そんな疑問をきっかけに明かされるのは、恐竜の進化と絶滅の秘密!?
鈴木まもるさんは『ピン・ポン・バス』や『せんろはつづく』、「黒ねこサンゴロウ」シリーズなどを手掛ける絵本作家で、鳥の巣研究家としても知られています。
現代を生きる鳥たちは恐竜から進化したとされていますが、どうして恐竜たちが飛べるようになったのか、どうやって鳥たちが大量絶滅を生き延びたのかなど、疑問はまだまだ残されています。
「巣や卵と、子育てのちがいをしらべれば、なぜ恐竜が絶滅し、鳥が生きのこったのかがわかるのでは、とぼくは考えました」
ちいさな恐竜はきっと、敵にみつかりにくいやぶの中や水辺、木の上などに巣を作ったはず。だとすれば、似た場所に巣を作る鳥について考えれば、当時の恐竜の生活が想像できるのでは?
水辺は水が蒸発して空気が上に流れ、空に飛び立ちやすい。やぶの中に暮らす鳥はふだんあまり飛ばず、敵に襲われたときに走って飛び立つ。当時の小さな恐竜たちもそれと似た環境で生活していて、少しずつ空を飛ぶように進化したのではないか?
本書ではそんなふうに、今も生きる鳥たちの巣の形状や生態から、はるか古代を生きた恐竜たちの秘密を推理していきます。
化石を発掘しなくても、むずかしい本を読み解かなくても、今を見つめる目と想像力で、はるか太古の謎に迫る。まるで、恐竜界のシャーロック・ホームズ!
恐竜の新たな一面を知れるということが本書のみどころであるのはもちろん──
身の回りにあるものに好奇心を持って臨み、よく観察すること。そして、興味のままにイマジネーションを羽ばたかせ、目の前にはないものをさまざまに思い描くこと。そういったことが、専門的な資料や経験にも並ぶパワーを秘めているということに、深い感動を覚えました。
鳥の巣研究家の著者だからこそ描けるユニークなアプローチで太古の世界を見つめ、恐竜の進化の秘密に新鮮な視点から切り込んだ、他に類を見ない一冊です。
この書籍を作った人
1952年、東京都生まれ。東京芸術大学中退。「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)で赤い鳥さし絵賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞を、『ニワシドリのひみつ』(岩崎書店)で産経児童出版文化賞JR賞を受賞。主な絵本作品に『ピン・ポン・バス』『がんばれ!パトカー』(偕成社)、『せんろはつづく』『つみきでとんとん』(金の星社)、エッセイに『バサラ山スケッチ通信』(小峰書店)などがある。また鳥の巣研究家として 『日本の鳥の巣図鑑 全259』(偕成社)、『鳥の巣いろいろ』(偕成社)、『鳥の巣の本』『世界の鳥の巣の本』『ぼくの鳥の巣コレクション』(岩崎書店)、『鳥の巣みつけた』『鳥の巣研究ノート』(あすなろ書房)などの著書があり、全国で鳥の巣展覧会を開催している。