人気コンビがおくる、新作クリスマス絵本
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インタビュー
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2024.11.14
絵本の魅力って何でしょう? そう考えた時、家にいながらにして世界中を旅することができる、ページをめくった先に知らない世界が広がることが魅力のひとつだと気づきます。
遠くパリの地から、世界中の子どもたちへ絵本を届け続けている絵本作家・市川里美さん。市川さんの作品にも、家にいながらにして、知らない世界を旅することのできる魅力が詰まっています。
その中でも今回ご紹介する『ぼくのカキだよ!』は、日本が舞台の作品。今までインドやペルーなど、日本から遠く離れた土地に暮らす子どもたちの姿を描いてきた市川さんがなぜ、日本を舞台にしたおはなしを描こうと思ったのか、そのアイデアの生まれた理由について伺いました。
出版社からの内容紹介
柿が大好きなケンちゃんは、実が赤くなるのを待っています。おじいちゃんやおばあちゃんから、実の取り方や、柿がどんなに体にいいかを教えてもらい、楽しみにするケンちゃん。なのに、カラスに先に食べられてしまい…。
世界の子どもたちを描いてきた作者が、日本の子どもを描きました。縄文時代から食べられていたという柿をテーマに、日本の原風景が語られています。暮らしの中にある素朴なものや知恵を大切にしてきた作者ならではの作品です。
この人にインタビューしました
岐阜県大垣市生まれ。1971年、旅行で訪れたパリにそのまま移住。その後独学で絵を学ぶ。こどもの世界をあたたかく、生き生きと描き、世界で出版された絵本は70冊を超える。『春のうたがきこえる』(偕成社)で講談社出版文化賞絵本賞、『はしって!アレン』(偕成社)で第28回サンケイ児童文化賞美術賞など、受賞多数。『とんでいきたいなあ』『ぼくのきしゃポッポー』など、パリの暮らしのなかから生まれた絵本や、『じゃがいもアイスクリーム?』『ジブリルのくるま』『森からのよびごえ』『なつめやしのおむこさん』『マンモスのみずあび』など、世界各地を旅し、その土地のこどもたちとの交流や暮らしから生まれた絵本、日本を舞台にした『ハナちゃんのトマト』、ニューヨークを舞台に、少年とぬいぐるみの友情を描いた『ペンギンのパンゴー』など多数の作品がある。
───10月に発売されたばかりの絵本『ぼくのカキだよ!』は、新作でありながら、もうずっと前から「秋の定番絵本」として愛され続けているような、懐かしさを感じました。
市川さんは今まで、日本以外の国に住む子どもを主人公にした絵本を多く作られてきましたが、今回、日本を舞台にしたおはなしを作ろうと思ったのには、何か理由があるのでしょうか。
この10年ほど、毎年2か月間は日本に帰っています。帰りたい季節はやはり秋。なぜなら秋は柿のなる季節だから。子どものころ、岐阜の実家の片隅にあった柿の木、あるいは畑にある木、それらはいつからあるのかわからないほど古く、小さい実しかつけないけれど、とても甘いのです。子どものころ、おなかをすかせて学校から帰り、取ってかぶりついていた忘れられない特別な味です。
大人になって様々な国を旅し、珍しい果物も食べました。しかし子どものころ食べた、あの甘くシャキシャキとした歯ごたえのある柿の味に勝るものは、他のどこにも見つかりません。
また、葉っぱを落としたあとも真っ赤な実だけをつけている柿の木の可愛いらしいこと! こんな木も、他にどこにも見たことがありません。それが故郷にあったのです。スケッチしながら、これを絵本にしてみたいと思いました。
日本晴れの真っ青な空に映える真っ赤な柿は、私のまぶたに焼き付いて一生忘れられない美しい風景です。
───柿が大好きな男の子・ケンちゃんの、庭の柿が赤くなるのを今か今かと待つ姿、棒を使って柿を落とす時の真剣な表情、赤く熟れた柿を食べるために家路を急ぐ嬉しそうなスキップなど、ケンちゃんの喜怒哀楽や柿への愛が絵本からあふれ出てきているように感じました。ケンちゃんにはどなたかモデルがいるのでしょうか?
ケンちゃんのように、柿が赤くなるのを毎日待ち遠しく見ていたのも、カラスに食べられてくやしくて、カラスを追い払おうと見張っていたのも、じつをいうと子どものころの私です。
絵本を作る時、たとえそれが外国の遠い国で偶然出会った子どもたちのおはなしでも、そこに登場する子どもと私とは、どうしても一心同体になります。彼らに共鳴してしまったからこそ、その姿を絵本の中に留めておきたいと思うのです。
ふる里を舞台にした『ぼくのカキだよ!』の絵本を作りたいと思った時も、主人公はケンちゃんという男の子ですが、自分の子どものころの思い出をあちこちに織り込みました。幸いだったのは、故郷を離れて50年以上過ぎているのにもかかわらず、すべての景色や自然が、今も子どものころそのままにあったことです。年老いた母も干し柿作りをしていました。家族の者もかわらぬ姿で畑仕事をしています。甥が子どもを連れて遊びに来た時も、みんなで一緒に竿で柿をとりました。柿の木ももっと古くなって、そのままありました。どんどん変わる世の中で、時が経って変わらないものもあることは、嬉しいことです。
───絵本の中でケンちゃんの宿敵となる、柿を愛してやまないカラス。1ページ目から絵の中にこっそり登場していて、その存在感、生命力あふれる姿がとても魅力的です。カラスを描くのは大変でしたか?
それまでカラスを描いたことはほとんどありませんでした。この絵本を創作する際、図書館からカラスの写真集やカラスの習性などについて書かれた本を借りたり、カラスの動画もたくさん見ました。カラスの賢さに驚かされ、自然の中で生きるものの強さに圧倒され、このごろではカラスを見るたびに、「えらいねー」と声をかけたくなるほどです。
柿の木が誰のものであろうと関係ありません。カラスにとっても自然の恵みは天からの贈り物です。そしてカラスだってケンちゃんと同じように寒い冬を元気で過ごしたいに違いありません。絵本の中に、毎日食べに来るひょうきんで図太いカラスを大写しで表現してみたいと思いました。大地の上では、人間もカラスも平等に生命を謳歌する者同士であるのです。
───『ぼくのカキだよ!』では最後に干柿をつくる場面があります。『ジブリルのくるま』では主人公の少年が空き缶やペットボトルでおもちゃのくるまをつくる場面が、『こうまのマハバット』ではおばあちゃんが孫の少女を手料理でもてなす場面がありますね。市川さんは、作品の中で手仕事を描かれていることが多いように思いますが、意識して描かれているのでしょうか。
確かに意識していると思います。どんな国に行っても、また大人でも子どもでも、自分のものを作っている人に出会うと興味をかきたてられます。手作りの人形、おもちゃ、手編みの帽子、子どもの靴など、違った国に行くたび、探し求めて集めています。ペルーの山奥で自分で着る布を織る女性、キリギスの高原のテントで毎日手作りのうどんや餃子をふるまってくれたおばさん、サハラ砂漠で自分で作った車で遊ぶ男の子、アマゾンではジャングルにはえるヤシの木の葉から丈夫な袋を編んでもらいました。それら旅から持ち帰った手作りのものは思い出も含めてすべて私のたいせつな宝物です。
無から何かを作り出す仕事は、人一倍、エネルギーや忍耐もいります。しかし自分の手で世界にひとつしかないかけがえのないものを作ることって、これ以上の幸せはこの世の中にあるのでしょうか。私も一冊の絵本を作っている時は幸せな時間です。
───市川さんは21歳の時に旅行で訪れたパリにそのまま移住され、パリの本屋さんで偶然手にした絵本に刺激を受けて、独学で絵本を作りはじめたそうですね。今はパリのどちらで創作をされているのですか?
パリのモンマルトルの丘にある住居兼アトリエで仕事をしています。この界隈は世界中からサクレ・クール寺院を訪れる旅行者でいっぱいですが、ひとたび中庭に入ると緑にかこまれ小鳥のさえずりが聞こえるほど静かで、気に入って住んでいます。ここで、今は1年に1作ずつのペースで絵本を創作しています。
───『ぼくのカキだよ!』も、フランス語版が先に出版されたと伺いました。フランスの皆さんの反応はいかがでしょうか?
フランスでは日本より早く2024年8月28日に出版されました。そして私は2024年9月5日に日本に向けて出発、その後の詳しいことはわかりませんが、大変評判がいいと聞いています。パリ出発の数日前サン・ジェルマン・デ・プレ界隈を散歩していた時は、3軒の本屋さんで『Touche pas à mes kakis !』(日本題:ぼくのカキだよ!)がショーウインドウに飾られているのを見かけました。
フランス人は日本のことにはとても興味があるようです。年末のパリでの絵本図書展や、来年早々には、いくつかの地方の図書展にも招かれています。フランスの子どもたちに日本の柿のお話をするつもりです。
───市川さんの作品の中には『こうまのマハバット』や『カイマンのダンス』など、ご自身が旅行に出かけた先が絵本の舞台になった作品が多くありますが、旅行先はどのように決めているのですか?
いつもどの国を訪れたいかは自分で選び、1カ月間くらい取材旅行にでかけます。土地の人に交じって毎日スケッチしながら過ごす期間は、毎日新しい発見があるじつに楽しい時間です。
───旅行先を決める時から、どんなおはなしを作りたいか考えているのでしょうか?
だいたいどんなテーマにするかだけは、一応頭の中にありますが、それは甚だ漠然としたものです。
たとえば「今度は象のおはなしを作ってみたい」とか「アマゾン川のおはなしはどうだろうか?」と頭にあるのですが、具体的にどんなものができるのかは、さっぱり見当もつかないまま旅に出ます。旅行中は行き当たりばったり、ひたすら見たもの、面白いもの、気になるもの、好きなもの、美しいものなどスケッチブックに描きとめることだけに集中します。あとになって何が必要になるかはわかりません。全然必要なさそうなものまで、描きとめます。これは楽しい作業です。
パリに帰って、ひとたび絵本の物語作りに集中する時、このスケッチブックは大変役に立つ資料になります。数年前からカメラも持ち歩くようになりましたが、スケッチはひとつひとつ自分の目で見て描いているので、写真では見えない細かいところまであとになってわかりやすいのが利点です。私にとって絵本作りにどうしても欠かせません。
───スケッチブックを見ながら、旅の記憶を思い起こして、おはなしを作っていくのですね。
そうです。スケッチを参考に物語を作る過程は、まさに絵本作りの仕事がはじまる時といえます。おはなしを組み立て、削り、加え、消しての連続のあと、自分が言いたかったストーリーにたどりつくまで何度もやり直しです。でも、たどり着けた時は嬉しい瞬間です。
制作にはデビューのころからずっと鉛筆と水彩絵具を使っています。
───市川さんご自身が、知らない土地へ行き、知らない人々とふれあうなかで絵本を描かれますが、作品を通して子どもたちにどんなことを伝えたいですか?
全く初めての国に着いて、そこに知っている人もなく、どんなことに出会うのか見当もつかないというのは、たいへんワクワクさせられるものです。
国が変わると、言葉、習慣、宗教、自然、着るもの、食べるものも違うのです。そこで生活する人たちを、さっと見て通り過ぎるだけでなく、土地の人たちと暮らしを共にして初めて、わかってくる、見えてくることがたくさんあります。そこで暮らす子どもたちも、子どもなりの喜びや悲しみ、色々な問題をかかえています。でも子どもたちはどこでも底抜けに明るく、彼らなりに強く生きている姿には感動します。
私にできる絵本という手段を通じて、「世界のかたすみには、こんな子どもたちもいますよ!」と伝えたくなってしまうのです。
───『ぼくのカキだよ!』の舞台は日本ですが、今後も日本を舞台にしたおはなしを描く予定はあるのでしょうか?
もちろん、またいつか日本を舞台にした絵本を作る機会があることを願っています。
───今、進めていらっしゃるおはなしはどの国が舞台なのですか?
現在取りかかっている絵本は、西アフリカのベナンの海岸がおはなしの舞台です。ベナンには今から15年ほど前に一度訪れたことがあります。その時の印象は鮮やかで、再びいつかそこを訪れてみたいものだと願っていました。やっとそれが実現出来たのは、今年の2月です。約1か月間ほど漁村に滞在し、スケッチを重ねました。そこで出会った、地引網で魚を獲るパパを持つ小さな男の子のおはなしが次回の絵本になります。
下書きは出来あがり、編集者の承諾も得ました。最後の仕上げを11月にパリに帰った時点で取りかかるつもりです。
───日本から帰られて、すぐに次の絵本の仕上げをされるのですね。西アフリカの絵本がいつ私たちの手元に届くのか、とても待ち遠しいです。市川さんがこれから、行ってみたい国はどこですか?
世界は広く、行ってみたい国はまだまだたくさんあります。
───お話をうかがって、市川さんの描く世界の子どもたちの絵本をこれからもたくさん読んでいきたいと思いました。最後に絵本ナビユーザーへメッセージをお願いします。
日本にはたくさんの美しい土地、自然がたくさんあります。私の生まれたふる里は、西美濃の青い平野の広がるごく普通の穏やかな田舎です。ここでは日本の田舎での伝統や日常生活や畑仕事が、だんだん忘れられそうになりながらも今も続けられています。
祖母から子に伝えられた干し柿など手作りのものへの愛着、知恵、自然への敬い、動物への思いやりなど、ケンちゃんと柿とカラスとおばあちゃんとの日常のなにげないやりとりの合間にも、まだまだあちこちに日本人の心が残っているのを、この絵本を通じて絵本ナビユーザーのみなさんに、日本の若い世代の子どもたちに、また世界の子どもたちにも読みとっていただけたら幸いです。
───楽しいお話をありがとうございました。