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インタビュー
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2017.01.19
1959年のデビュー以来、たくさんの作品を制作・発表してきたかこさとしさん。今まで出版された絵本の中には、ザンネンながら、すでに絶版、品切れされている作品もあります。復刊ドットコムでは、絶版となったかこさんの絵本の中から、特に読者の要望の高い作品、今また多くの人に読んでほしい作品を復刊させています。2016年8月『こどものとうひょう おとなのせんきょ』(復刊ドットコム)が復刊されました。発売後、フェイスブックやツイッター、テレビなどで反響を呼び、たちまち重版がかかったという1冊です。今回、かこさとしさんに『こどものとうひょう おとなのせんきょ』を出版した当時の思い、復刊されることへの感想などお話を伺いました。
みどころ
「選挙」って何? 「民主主義」って、どういうこと?
フェイスブック、ツイッターで大反響! 稀代の名著が緊急復刊!!
2016年で90歳。絵本作家として絶大なる人気を誇る、かこさとし。
そのかこさとし先生が、今から30年あまり前に描いた「民主主義の絵本」です。
ハフィントンポスト(日本版)への掲載をきっかけに、フェイスブックやツイッターなどを通じて大きな反響を呼んでいる本書。
日本社会も世界各国も、混迷を深める現代に、もう一度「民主主義」のあるべき姿を問いかける。優しい絵本の中に、大切なメッセージがいっぱい詰まった一冊です。
いつか選挙権を持つ子どもたちも、18歳で初の選挙に参加する人たちも、そして大人になってしまった人たちも…。
今こそ、この名著で「民主主義」について考えてみましょう。
───2016年は、今まで20歳以上だった選挙権が、18歳以上に引き下げられた歴史的な年となりました。この年に『こどものとうひょう おとなのせんきょ』が復刊されたことは、とても意味があることのように感じます。
私自身、忘れ去られた本かと思っていたので、この度、復刊してくださり、また多くの子どもさんたちに読んでもらえることになったのは、とてもありがたいことだと思います。
───この作品は33年前に描かれたものですが、候補者のポスターが町中に貼られたり、選挙カーから大きな声が流れてくる様子など、今も変わらない様子が描かれていてとても意外でした。
そうですね。今の社会の状況は、33年前と、そしてそれ以前から行われていることと、そう変わらないかもしれません。その変化をしていない様子も絵本から感じていただけるかと思います。
───おはなしでは、町の中にある児童館前の小さな広場の使い方を巡って、争いが絶えないので、児童館に集まる子どもたちが、投票で広場の使い方を決めようというストーリー。ちょうど大人たちが選挙をしていて、それを見た子どもたちが「投票をしよう」と決めるまでの流れがとても自然だったのですが、かこさんが活動されていたセツルメント(※)の中でも、同じようなやりとりがあったのでしょうか?
※セツルメント活動……学生などが労働者地域に対して、宿泊所、託児所などの設備を設け、住民の生活向上と自立のための助力をする社会事業。
私がセツルメント活動に関わっていた時代、学校では「多数決原理」というのが主流で、子どもたちの多くは何でも多数決。数が多い方に意見が持っていかれるというやり方を学んでいたようでした。でも、セツルメントや子ども会はそのようなシステムから隔離された場所。子どもたちは少数どころかひとりでも、やりたいことがあったら実行していました。たとえ反対意見が大多数を占めていたとしても、そこは子ども同士で意見を言い合い、結果的に実行力のある方が動かしていたんです。
───やりたいことをやる。やりたい子たちが率先して実行する。とてもシンプルで分かりやすいですね。
例えば、ある日などは、子どもたちがガリ版で新聞を作りたいと言いました。どうやら、子ども会に参加している大学生がガリ版で地域の方たちへ配るビラを作っている様子を見て、自分たちもやりたいと声を上げたようなのです。でも、子どもはインクで服を汚したりするじゃないですか。だから、大人たちは最初、心配していました。それでも、やりたいと声を上げるので、私は私物のガリ版印刷機を提供して、子どもたちの新聞作りを見守ることにしました。
───子どもたちは新聞を完成させることができたのですか?
はい。さらに週刊で「こどもしんぶん」を発行していきました。この「こどもしんぶん」づくりをした子どもたちは10人くらいいたと思うのですが、周りの心配を押し切って実行したのは2人くらい。残りは2人に引っ張られる形で新聞づくりを手伝っていました。
───多数決よりも、実行力のある方にみんなの行動が動いていった一例ですね。
はい。私にとってもその「こどもしんぶん」は宝物。大事に取っておいていたのですが、残念ながらどこかにいってしまって、いまだに見つかっていないんです。
───それは残念……。
大人の社会でも、多数決よりも、このように本当に正しいことに目を向け、実行していく力のある方が先導して行っていただければ良いのですが、子どもの社会よりも複雑ですから、そういうわけにはいきません。ただ、多数を占めた方は、少数の意見を十分くみ取って、良いものは実行していくという態度であることが、民主主義の大事なところだと思っているんです。単に数が多い方に物事が動いていくということは、非常に良くないですね。
───絵本の中でも最初は数の多い野球のチームが投票で多数を占め、広場を使うことになりました。投票の結果を見て、喜んでいる野球チームの様子と、そのほかの子どもたちの表情、絵を見ているだけで子どもたちの気持ちが伝わってきます。
この投票のときに「つかいかたの いいんをえらぶ」という案も出てきます。これが、のちのち効いてくるのですが、ここではまだ、子どもたちはその意見の意味を理解できません。そして、ただ多数決によって決まったことに従うわけです。そうすると、また別の問題が出てきてしまうんですよ。
───野球のチームが使えない雨あがりに、投票で遊べなくなった子どもたちが広場を使い、野球のチームとケンカになってしまうということですね。6年生のトキあんちゃんの発案で、再び投票を行うことになりますが……。
前の投票でバラバラに分かれていた、野球のチーム以外の子どもたちが、相談して集まったため、投票で多数になり、広場を使う権利が「おにごっこなどを する」チームに移ってしまいます。
───これでようやく、一件落着となるかと思いきや、「おにごっこなどを する」チームが鬼ごっこ以外の遊びをしていることを野球チームの子どもたちが見かけてしまい、再びケンカになります。再びトキあんちゃんが仲裁に入りますね。そこで、「かずが おおかったら なんでもやって いいなんて、いったい、だれが きめたんだ。」と子どもたちに尋ねます。「みんしゅしゅぎだもん、たすうけつだよ。」と答えた子に向かって、トキあんちゃんが発した言葉が、かこさんが伝えたかった「民主主義の真髄」ですね。
そうです。1983年にはじめて『こどものとうひょう おとなのせんきょ』が出版されたとき、あとがきにも書きましたが、「少数でも優れた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な『民主主義の真髄』をとりもどしたいという願い」で書いたものです。
───トキあんちゃんの提案を受けて、子どもたちが再び投票をすることになります。しかし、今度は広場を誰が使うのかを多数決で決めるのではなく、広場の使い方を決める委員を選び、その委員が考えたやり方に対して賛成か反対かを投票するというやり方。「ひろばのつかいかたいいん」に選ばれた子どもたちは、ほかの子たちの考えをよく聞いて、みんなが納得する広場の使い方を提案します。
失敗を繰り返しながらも、子どもたちが正しい民主主義の在り方について考える内容は、とても分かりやすく、共感される方も多いと思います。
ありがとうございます。
───そこで「めでたし めでたし」で終わるかと思ったのですが、最後に子どもたちが大人たちの行っている「選挙」によって、自分たちの遊び場がなくなってしまうのではないかと、私たちへ問題を投げかけます。このような終わり方は絵本ではとても珍しいと思いました。
絵本を読んだ子どもさん自身が自分の頭で判断して動かないと、どんないいことでも長続きしないと思うんです。それは絵本だけでなく、日常のあらゆることに当てはまる話で、上から押し付けたのでは長続きしません。たとえ、いい学校に行って、塾へ入って、良い先生と出会ったって、本人がやろう! と決めなければ、勉強も進まないし、人間としても成長しない。ただ、本人の力を引き出してあげる雰囲気を作るのは大人の責任でもあるし、教育というものの一番大事なところだと思うんです。
───この絵本を読んだ多くの子どもたちやその家族、そして先生たちが、投げかけられた問題について話し合い、「民主主義の真髄」をきちんと考えるきっかけにしてくれると良いですね。
───おはなしの中には、野球チームのリーダーのヤッちゃんや、多数決のしくみをうまく使って、野球チームから広場を使う権利を取り返すケンちゃんなど、子どもらしいキャラクターが登場します。中でも、6年生の「トキあんちゃん」は、重要なキャラクター。「トキあんちゃん」にはモデルがいらっしゃるのですか?
私が子ども会の活動をしているときに出会った、ケンちゃんという男の子がモデルです。ケンちゃんは、当時、小学校6年生だったのですが、校長先生が全校生徒に「ケンちゃんと一緒に遊ばないように」と言うくらい、乱暴者で、いたずらばかりする子だったそうです。ところが、どういうわけか、ケンちゃんは毎回、子ども会の活動をのぞきに来るんですよ。
子ども会なんていうのは、小学校低学年の子どもたちばかりが参加するものですから、高学年の子は、子ども会なんかしゃらくさいと、大人の遊び場に顔を出す子が多いんです。ケンちゃんは6年生の中でもとりわけ屈強で、大人顔負けの体格を持つ子どもでした。
───ケンちゃんは子ども会の活動にやってきて何をしていたのですか?
特に何もしないんです。でも、きっと子ども会の活動に関心があるんだろうと思って、私はそっと見守っていました。あるとき、子ども会で幻燈会をすることになったんです。当時は家にテレビなんかありませんから、小さい子どもにとっては一大イベントです。私は、子どもたちが来る前に会場の準備をしていました。そうしたら、フラッとケンちゃんがやってきたんです。ちょうど、幻燈を映す幕の準備をしていた私は、ケンちゃんがそばを通ったとき、わざと、幕を片っぽ落としました。そして、「ケンちゃん、すまんけど、そっちを持っていてくれる?」と聞いたんです。
───ケンちゃんはどうしたのですか?
だまーって、幕の端をもって、準備を手伝ってくれました。準備が終わると、私はもう一度ケンちゃんに言ったんです。「これから、小さい子が会場に入ってくるけど、いつも靴を並べずにグチャグチャにするから、ケンちゃんは入り口で履物をきちんと並べるよう、見張っててくれないか」って。結局ケンちゃんは、幻燈会が終わるまで、ずっと会場の入り口でがんばってくれたんです。小さい子たちは、恰幅のいいケンちゃんがいるもんだから、ビックリしてしまって、みんな静かに靴を並べて会場に入ってきましたっけ。それから、ケンちゃんは私たちの仲間になって、一緒に子ども会の活動を手伝ってくれるようになりました。
───まさに、トキあんちゃんのような存在ですね。
小学校の先生からは煙たがられていたようだけど、ケンちゃんの実行力と、良いと思っていることはやる決断力は本当に素晴らしかった。そして私は、ケンちゃんをはじめ、セツルメント活動で出会った子どもたちから、子どもというのは、大人の行動をとてもよく見ている、そして、きちんと向き合って、通じ合えば、大人が言葉で言わなくても、自分たちで考え、しっかりと良い方向に行くものだということを教えてもらいました。
───「きちんと向き合う」ということを、かこさんは『こどものとうひょう おとなのせんきょ』を描くことでも、実行しているように思いました。
今までも何度かお話させていただいていますが、前の日本の戦争(第二次世界大戦)のときも、いろいろな政治の動きがあって、結果、国民の大多数がその戦争をやれという、多数決で決まったように思うのです。もちろん、反対をする少数派の方たちはいましたが、そういった方たちはみんな牢屋に入れられてしまった。
しかし、日本が敗戦したとき、今まで戦争に賛成していた大人たちが手のひらを返したように、みな「自分は戦争に反対だった」と言い出したんです。自分たちの犯した過ちを反省することも、そこから学ぼうという態度も、ほとんど見られませんでした。それが非常に悲しかったんです。私も当時19歳で大人の端くれでしたから、自分も同罪であると思っています。それで、何とかしてこの罪を償わなければならないと思い、子どもさんには私のような過ちを犯してほしくないと、絵本を描いているのです。
ただ、口先で言うことはとても簡単です。実現しなければ、何も役に立ちませんから、戦後70年も経って、お前は何をやっていたのかと、あのとき亡くなった仲間に問われれば、今でも恥ずかしい限りなのです。
───70年も、戦争のことを悔い、その思いを持ち続けて作品を発表されている、かこさんのような存在は非常に稀有だと思います。
もちろん、絵本を描かれる方の思いは自由ですから、どんな立場で作品を生み出されても良いんです。ただ、ぼく自身は戦争に対する反省と、悔いから、子どもさんたちがきちんと学び、正しい判断ができるようになるよう、絵本を作らせてもらっているのです。そうでなければ、何のために生きているか、昭和20年のあのときに、なぜ残されたのか、自分自身への言い訳が立たないのです。
───復刊ドットコムでは、今回の『こどものとうひょう おとなのせんきょ』以外にも、かこさんのデビュー作である『ダムのおじさんたち』など、いろいろな作品が復刊されています。ご自身の作品が復刊されることについて、どう思われますか?
大変ありがたいことです。ただ、昔に描いた作品は、当時の私が、何とかして社会のお役に立つようにと思って描いた作品です。それが、いまだにお役に立つということは、なんだか社会全体が少しも進歩していないようにも感じられて、寂しさも感じています。
みどころ
やまおくのたにがわをおじさんたちがのぼってきました。そして、おじさんたちはあめのひもゆきのひも、みんなのためにいのちがけでだむをつくりました
───出版当時に、かこさんの作品を楽しんだ子どもたちが、大人になって、自分の子どもたちへ、改めてかこさんの作品を読ませてあげたいと思ったのかもしれません。
そうですね。復刊ドットコムさんで出版していただいた作品には、奈良の大仏がどうやって作られたのか、歴史的背景や建立の様子までを描いた『ならの大仏さま』があります。これは私自身が、東大寺の図書館に籠って調べたことや、東大寺の住職へ取材をさせていただいたことをまとめて描いている思い入れのある作品。こういった作品を復刊していただくことはとても嬉しいですね。
みどころ
ならの大仏様がどのようにできたのかその歴史を分かりやすく紹介しています。
かこさとしの絵も細かいところまで再現されていて 奈良時代にタイムトリップした気持になる学習絵本です。
───これから新たに復刊される作品もたくさんあるのでしょうか?
実は『こどものとうひょう おとなのせんきょ』は「かこさとし しゃかいの本」というシリーズの中の1冊なのですが、2017年にはこのシリーズから何作か復刊されることが決まっています。
───それはすごいですね! どのような作品が復刊されるのですか?
ひとつは『ほんはまっています のぞんでいます』。これは本に関わるおはなしで、古今東西の名作キャラクターが登場します。もうひとつは『しんかんせんでも どんかんせんでも』、今話題のリニアモーターカーも登場する作品。そして、原始時代から現代まで、町がどのような歴史をたどってできたのかを描いた『わたしのまちです みんなのまちです』。『ゆうびんですポストです』は、郵便について紹介する絵本。これは、年末に発売される予定です。
───1年をかけて、シリーズが復刊されるなんて素敵ですね。「かこさとし しゃかいの本」シリーズ、多くの方に読んでいただき、新たな名作となるよう、絵本ナビでもプッシュしていきたいと思います。
ありがとうございます。
───こちらこそ、今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
文・編集/木村春子
写真/所靖子