九郎丸というカラス天狗の数奇な運命が、細やかな筆致で描かれ、不思議な展開に息をのむ、壮大な歴史ファンタジー。ファン待望の新作。
ごめんなさい、絵本ではないのです。しかも長編の児童文学なのです。
でも、『だれもしらない小さな国』の感想を載せている方が何人かいらっしゃって、佐藤さとるさんのファンタジーの大ファンの方も多いようなので、是非紹介したくて書くことにしました。
私の姉が『だれもしらない小さな国』の大ファンで、若菜珪さん挿絵の初版本を宝物にしているのですが、私はそれほどのめり込んだ方ではありませんでした。
ただ久しぶりの長編だからということで、この本を借りてみたのですが、読み始めたらもう止まらなくなりました。
そんなに派手な内容ではなく、むしろ地味で静かな滑り出しなのですが、なんというか、ぐいぐい引き込まれていくのです。
作者の筆力の素晴らしさを改めて痛感しました。
天狗や実在する歴史上の人物やいろいろな登場人物が入り乱れて、程よい緊張を保った日本のファンタジーです。
悪人も出てきませんし、ハラハラドキドキの場面も特にありません。
けれど、大天狗様の堂々とした様子を筆頭に、位の高い天狗たちの品格の素晴らしさや、物語を動かす山番の与平じいさんたち一般の人々の人の良さなど、忘れていた日本人の良さが感じられます。
後半、物語が走りすぎて尻切れトンボになるところも見られますが、最後まで一気に読み切らせてしまう力強さを持った本です。
小学校高学年くらいなら自分でも十分に楽しめます。 (金のりんごさん 40代・ママ 女の子12歳、男の子9歳、男の子6歳)
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