オペラの入門書はもうたくさん世の中にありますし、かくいう私も書いたことがあります。 どんな本にしようかとずいぶん迷いました。 「トラヴィアータ」や「蝶々夫人」がどれほどの名作か、今更繰り返すまでもないのではないか。 作品の個々の情報は、インターネットで簡単に見つかるのではないか。 そんな時代に本を出す意味とは何だろう。 そんなことを考え、オペラの世界の広さを示す方向性で行こうと決めました。 ですので、一応は歴史の流れに沿って章立てをしましたけれど、いわゆる名作、人気作にこだわったわけではありません。 そもそも、たとえある作品がどれほど名作と言われていようと、あなたの心を動かさなければ、価値はありません。 音楽史の学者にでもなるのでなければ、好きなものを好きなように愛すればよいと思います。 それこそが愛好家の特権なのです。
ですので、本書を読まれた方は、ぜひ本場でオペラをご覧ください。 私が言いたいことはひたすらそれに尽きます。 それをしないでオペラを語っても、生身の女性を知らないで女性論を語る未経験な青年のたわごとと変わるところがありません。 ただちに、が一番いいことは間違いありませんが、そうでなくても、いつか行くつもりになってください。
劇場には発見があります。 また、どんなに見慣れた作品にも何か発見があります。 それは本当に思いがけなく起こります。 この世に存在するたくさんの閉じられたドアがひとつ解きあけ放たれたような気分。 そうした経験をするために劇場に出かけることは、人生の大きな楽しみのひとつです。 まして、それが外国の劇場でしたら、どれほど嬉しいことでしょう。 (「おわりに」より)
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