大陸の文化の中心地として華やかな魅力を誇るラベンヌ王国。その片隅で、道案内はじめ、盗みや裏の仕事をしながら生活している貧しい少年ノア。ある日ノアは、怪しげな男爵から、魔術を司る修道士たちのいる修道院から一冊の本を盗んでくるよう依頼されます。その代わりに、ノアが探し続けている三年前にいなくなったロゼ姉さんの居場所を教えてくれるというのです。弱みにつけこまれたノアは、命からがらその本を盗み出します。しかしその本は、選ばれし者〈青の読み手〉だけが読めるという魔術書で、なぜかノアだけが白紙のページに文字を浮かび上がらせることができたのでした。 その後なんとかひと目会うことのできたロゼ姉さんは、ノアのことを知らない人のように扱い、別人のようになっていました。おまけに王宮にいる王女もロゼ姉さんにそっくりだというのです。 はたしてノアは<青の読み手>なのでしょうか? またなぜ、ロゼ姉さんに似た人がふたりいるのでしょうか? そして怪しげな男爵の正体は一体……?
端を発するのは、ラベンヌ王国の世継ぎ問題。世継ぎになかなか男の子が生まれず、女の子は生まれても何らかの方法で始末されてしまう。ましてふたごは王国を滅ぼすと言われ、不吉だとされる。そんな王国の決め事が悲劇のはじまりだったのです。その世継ぎ問題につけこみ、「サロモンの書」と呼ばれる魔術書を手に入れて黒魔術を操り、王国の王の座を乗っ取ろうとする男爵。しかし、その魔術書が読めるのはノアだけ。ノアはその本を読む力を使って、王国を救うこと、そしてノアにとっては一番大事な目的である、ロゼ姉さんを見つけて助けることができるのでしょうか。
男爵や黒魔術は恐ろしくおどろおどろしい場面もあるものの、ノアの力になってくれる修道士のトマスや、言葉をしゃべれるネズミ、パルメザンの存在が頼もしく、緊迫した中でも時おりホッとさせてくれます。またふたりの王女や、ラベンヌ王国の王、カトリーヌ王女、ビクトル王子など悪しき者、善き者問わず、登場人物がそれぞれに魅力的なのもお話のみどころ。
また、本に助けを求めたい時、本がいつの間にかどこかへ行ってしまっていたり、思うように文字が浮かびあがらなかったり、「サロモンの書」がまるで意思を持っているかのようにひとすじ縄ではいかないところもハラハラドキドキの面白さ。浮かびあがるメッセージもひとつひとつが意味深で、その意味が解明されていくところにワクワクさせられます。平澤朋子さんによる、クラシカルで異世界の雰囲気たっぷりの挿絵も物語の世界にどんどん没頭させてくれるでしょう。
読み終えて、もっとノアの冒険が読みたくなったら続きもどうぞ。小学4年生ぐらいからおすすめの、一冊の本をめぐって紡がれる本格長編ファンタジー。シリーズは4巻まであります。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
王都の貧民街で暮らす少年ノアは、ある日、奇妙な依頼をうける。 <修道院から、ある本を持ちだしてほしい。> 依頼主の黒ずくめの男爵は、本と引きかえに、ノアが姉と慕う少女の行方を教える、という。 怪しみながらも、情報ほしさに依頼を受けたノアは、首尾よく修道院に忍びこむ。しかし、盗もうとしたその本は、選ばれし者だけが読むことのできる魔導書<サロモンの書>だった。 やがてノアは、囚われの王女や、人語を話すネズミと出会い、依頼主である謎の男爵の正体にせまっていく。 1冊の本をめぐり紡がれる長編ファンタジー。
「あなたも、いっしょにいらしてください。」 「おれも?」 トマスは、ノアの青い瞳を見つめた。 「あなたこそ、〈青の読み手〉にちがいない。 わたしたちは、ずっとあなたをお待ちしていたのです。」 (本文より)
|