日本では北海道だけに生息しているナキウサギ。 「ウサギ」と聞いて想像するような長い耳はなく、丸くて小さなかわいらしい耳が付いています。 そして、その名の通り「ピッ、ピチッ」と高い鳴き声を発します。 作者の本田哲也さんは北海道生まれ。最初にナキウサギに出会ったのは12歳の時だそうです。 『ナキウサギの山』では、本田さんが50年ぶりにナキウサギに会いに行き、2ヵ月間観察した子ウサギの様子が描かれています。
本田さんが子ウサギと出会ったとき、子ウサギはまだ親の元で暮らしていました。 しかし、成長した子ウサギは父親に縄張りから追い出され、本田さんは子ウサギを見失ってしまいます。 それでも諦めずに観察する場所を変えて待ち続ける本田さん。数日後に再び子ウサギに出会えました。 まだ警戒心の薄い子ウサギは、本田さんのすぐ近くに来たり双眼鏡のひもを引っ張ったりします。 子ウサギの愛らしい様子にほっこりと和んでしまいますが、そこはやはり野生の生き物たちが暮らす世界。ナキウサギの天敵であるオコジョやアオダイショウも住んでいます。 厳しい自然の中で一生懸命に生きているナキウサギ。本田さんのノンフィクション絵本は、私たちにその様子をそっとのぞかせてくれます。
(近野明日花 絵本ナビライター)
ナキウサギは日本では北海道にだけ棲息する小動物ですが、特定の種として知られるようになったのは20世紀にはいってからのことでした。ピチ、ピチッといった独特な鳴き声で鳴き交わすことで知られています。見かけはハムスターに似ていますがうさぎの仲間で、絶滅が心配される稀少な生き物と言われています。氷河時代からの姿を残しているとも言われ、「生きた化石」と評されることもありますが、北海道では比較的身近な山のガレ場地帯で見ることができるようです。北海道在住の著者は、少年時代にその鳴き声を聞いたことが忘れられず、長じてナキウサギの棲息地を何度も訪れ、スケッチを重ねました。非常に警戒心が強い一方で好奇心もとても旺盛なナキウサギのいきいきとした生態が、北海道の雄大な山岳風景、美しい草花やエゾリスなどの動物の姿とともに繊細な色鉛筆画で描かれています。
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