自分とは似ても似つかない、そもそも存在しないはずの幻の息子が妙にリアルに作家柿原の夢に現れる。若い編集者が訪れ、疫病や死にまつわるエピソードを披露していく。様々な謎と言葉を残し、死に至ることになる旧友との対話。移ろい儚く過ぎ去る時間と情景のなかで、生と死のイメージが纏いつく。否応のない老いと死を意識せざるをえない人生の終盤、悲観しながらも達観しただ暮らしていくなか辿り着いていく楽天の境地。 「死から生へ、ネガティヴのきわみからポジティヴなものへと転ずる」 「天ヲ楽シミテ、命ヲ知ル、故ニ憂ヘズ」という中国の古典にあるような境地へ。 解説・町田康。
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