●"最適者"はどこから来るのか? 新しい種が生まれた時、なぜそれが古い種にとってかわるのか? ダーウィンは、それを「自然淘汰」という考えで説明した。 環境の変化に適応できない古い種は淘汰されていく、それが「進化」なのだと。
しかし、では、どうして都合よく、新しい環境に適応した新しい種は生まれるのだろうか? 自然淘汰は、最適者を保存改良することはできる。だが、その最適者はどこからやってくるのか? ダーウィンがどうしても解けなかったのが、その「最適者の到来」の謎だった。 今、5000次元の組み合わせを解くことのできる数学とコンピューターが、「最適者の到来」の道筋を解きあかしつつある。
[目次]
◆プロローグ その偶然は起こりうるのか? ハヤブサの目は一キロ先のハトを見分ける。獲物を高速で追跡する間、眼の水分を保ちながら、泥をはらう第三のまぶたがある。紫外線をも見ることができる。しかし、このような複雑な機能を持つ眼が進化するには気が遠くなるような偶然と年月が必要なはずだ
◆第一章 最適者の到来 ダーウィンは、新種が生まれた時、なぜその新種が旧種におきかわっていくのかということを「自然淘汰」という考えで説明した。しかし、ではなぜ、その新種は生じるのだろうか。現代の分子生物学は、実験とコンピューターの力を借りてその謎を解こうとしている
◆第二章 生命はいかにして始まったか? 始まりはDNAだったわけではない。自己複製できるRNAが始まりの候補だ。しかし、RNAは、栄養がなければ複製できない。つまり、その前に、生命の原材料を生産できる化学反応のネットワークが存在していなければならなかった。熱水噴出孔がその候補地だ
◆第三章 遺伝子の図書館を歩く グルコース、クエン酸、エタノールなど、ある物質を「代謝」してとりこむことができるか否かを0、1で表せば、その組み合わせは2の5000乗に達する。これを5000次元の図書館にみたてる。この5000次元の組み合わせを解くためにコンピューターを利用した
◆第四章 タンパク質の多様な進化 20種のアミノ酸でできるタンパク質も20×20×20×……と膨大な組み合わせの図書館をもつ。長年の研究でタンパク質の性質がかなり解明され、この図書館もコンピューターで分析可能に。そこである問題に有用なタンパク質を探すと、次々と新しい答えが見つかった
◆第五章 新たな体をつくる遺伝子回路 植物の光合成に有利な複葉のような、新たな体はどうやって生じるのか。体を形作る遺伝子は、多くの遺伝子がつながる「回路」に調節されている。この遺伝子回路も天文学的な組み合わせの図書館をもっていた。そこには、うまく働く新たな体の候補者が無数に待っていた
◆第六章 隠された根本原理とは ここまで見たように、生命は一つの問題に、わざわざ複雑で膨大な解決策を準備している。なぜ単純にしないのか? 多少の変化で動じない「頑強さ」が、その答えのカギだ。多様な環境変化に対応する新種の候補を用意できるのは、隠れた「頑強さ」があるからだった
◆第七章 自然と人間の技術革新 自然が新種を生み出すイノベーションと、人間の技術革新は似ている。たとえばコンピューター言語の電子回路も、その組み合わせの図書館を考えられる。調べてみると、電子回路の図書館にも頑強な解決策のネットワークがあった。生命以外でも、同じ原理が働くのだ
◆エピローグ 生命そのものより古い自然の創造力 隠された遺伝子のネットワークが新種を生む原理は、コンピューターで数学的にシミュレートして初めてわかった。こうした原理は、生命のみならず、重力による銀河の形成にもあてはまる。哲学的に言えば、自然がおのずから創造する力の源泉は、生命や時間より古い
◆訳者解説「生命が最適者を発見するのに奇跡は必要ない」
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