クリムト、と言えば日本でもファンが多いウイーン世紀末美術を代表する画家。装飾的な画面と官能的な女性像が特徴です。実際に絵を見ると、ウイーンらしい憧れる様なきらびやかなイメージと独特の繊細な緊張感が凄い迫力で同時にせまってきます。そこでクリムト本人はいったいどんな人なのか興味惹かれます。よく見るのは長いスカートの様な変わった服を着て猫を抱いている写真。何だか勝手に変わり者で気難しいイメージがあります。彼は生涯独身で大の猫好きでした。アトリエに猫を8匹も飼っていたそうです。 この絵本が面白いのは、その、特に気に入られていた一匹の愛猫の視点からクリムトが語られている所です。そこから垣間見られるのは華やかな世界とは程遠い、ひとりの天才画家の姿であり、生活です。 「グスタフ(クリムト)は一度仕事に熱中すると、私達猫がいくら騒いでも全然気がつかない。昼間だけはモデルの女の人で賑やかになる。そしてデッサンした紙があっという間に床にいっぱいになるんだ。一日中考えるのは絵のことばかり。たまに旅行に出るとアート、アートで夢中になり、帰ってくるとすぐ仕事。家族で別荘に出掛けると今度は風景画ばかりを描いている。」 それからクリムトの違った一面も。家族と過ごす穏やかなクリムト。優しい心のクリムト。厳しいクリムト。そして絵の具に金色ばかり使うので「ちっともお金がたまらない。」なんて愚痴をいう姿を見たらクリムトを愛さずにはいられなくなってしまいます。今まで持っていたイメージとなんだか大分違う感じ。 画家の姿を絵本にする、というのは難しいと思います。イタリア生まれのこの絵本。絵はクリムトの絵に近からず遠からず。装飾的なイメージはそのままで優しい雰囲気のクリムトで描かれています。好き嫌いがあるかもしれません。でもクリムトへの愛がたくさん感じられるとてもいい絵本だと思いました。伝記としてではない、こういう描き方は素直にその人や作品に興味が湧いてきます。もっと色々な人の話も創ってほしいな。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
世紀末ウイーンで活躍した画家グスタフ・クリムトは大の猫好きでした。その愛猫から見たクリムトの生涯をクリムトの絵の特徴である金色を用いた美しいイラストで描きあげた豪華アート絵本。
クリムトは1900年代初頭に活躍したオーストリアの画家です。名前は知らなくても、作品を観れば、「ああ見たことがある」と思われる方はたくさんいらっしゃるでしょう。その作品は「妖艶で甘美なエロス」と評される物が多く、その官能的すぎる作品ゆえに、発表と同時に撤去せざるを得なくなったこともありました。
この本はクリムトの飼い猫が話者となり、人間クリムトの日常や心情を描いています。
「私にとって大事なのは、どれだけ多くの人が、私の絵を気にいってくれたかではなく、だれが気にいってくれたかなのだ。」
そういって、時代を突き進んだ、クリムト。
見るものを圧倒する美しさゆえに、私はクリムトの人間像を一度たりとも考えたことがありませんでした。逆に彼の描く風景画はどこまでもやさしく、作品のあまりのギャップに理解に苦しんだこともありました。
今回この本に巡り合って初めて、そのひととなりに触れることができ、やっと宿題の答えがみつかったような気分です。 (たれ耳ウサギさん 40代・ママ 女の子15歳、女の子13歳、女の子11歳)
|