アラスカやシベリアなど一年の半分以上を雪におおわれている極北地方。そこで暮らす人々の姿や生活の知恵を、探検家である著者が、写真と文章で描きだします。
冬には気温がマイナス40度になる、そんな冷凍庫より寒い土地にも、動物や植物、そして人間も生活しています。
本書で紹介される暮らしは、日本の生活とはずいぶん違います。移動は自転車や車ではなく、犬ぞりやトナカイのそり。おなかがすいても、スーパーはありません。自分たちでセイウチやクジラ、サケなどをとり、解体し、保存食をつくり、毛皮を衣服にしたり、商品にしたりします。子どもたちももちろん手伝います。
人々の生活の中に常に息づく、自然や精霊への感謝と畏怖。狩りは人間も命がけでいどみます。とった動物や魚は、肉だけでなく皮、骨、ひづめにいたるまで、どこも無駄にはしません。それが、人間のために死んでくれた命への感謝と敬意なのです。命を食べて、命をつなぐ。その意味の重みがぐっと迫ってきます。
空をいろどるはなやかなオーロラ、凍てついた大河、ためいきが出るほど美しい夕焼け、勇壮な野生動物たちや、ダイナミックなジャンプをするクジラの写真。そして、無邪気に笑う子どもたちのとびきりの笑顔! 見たことも想像したこともない風景がここにあります。
このすべてが、私たちが生きる地球の一風景なんだ。いまこの瞬間も、人間はさまざまな環境で、たくましく命をつないでいるんだ、と驚きと感動がこみあげてきます。
「ナイフとマッチ、それに釣り道具があれば、どんな状況でも生きていける」「やさしさがあるからこそ、強さが役に立つんだ。強いだけでは、なにもならないからね」「野生動物を食べることは、大地を食べることだ」――本書の中で紹介される人々の言葉には、生きることの本質を思い出させてくれる静かなパワーが満ちています。
生きるために本当に必要なものとは何か? 豊かさとは? 残酷さとは? 自分の周囲の生活や意識を含め、いろんなことを考えるきっかけがたくさんつまった、刺激的な本です。
(光森優子 編集者・ライター)
世界中を旅した探検家・関野吉晴が見た、人間がほんとうに豊かに生きる知恵とは?アラスカ・シベリアで暮らす人びとの生活を、迫力ある写真とともに紹介。どんな場所も「住みよい所」に変えていった人間の知恵を見て行きます。
|