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八乙女市子は、茨城にくらす中学3年生。受験生のはずが、志望校も決まらず、まだ気はそぞろ。そんなある日、「日本一の鉱物学者」が将来の夢という、ちょっと変わったクラスメイトの偉生から、とつぜん告白されてしまいます! とまどいながらもしだいに偉生に親しみを感じていく市子。二学期になり、偉生は、なぜか文化祭の展示で原発について調べようと提案します。
1995年に生まれ、2011年3月に中学卒業をむかえる15歳たちの一年間を描き、現代に生きる「希望」を問う意欲作。著者は坪田譲治文学賞作家、濱野京子。 本書は「日本児童文学」2012年3・4月号から11・12月号まで連載した作品に加筆修正したものです。
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あたしは1995年生まれ。今年、中学3年生になった。「希望」はない。なので、家の辞書すべてから「希望」の項目を切り取った。、『岩波国語辞典』からも『広辞苑』からも、その他の辞書からも・・・。まわりの子の希望もたいしたものじゃない。「公務員」とか「正社員」とか「読者モデル」とか。でも一人、変な子がいた。「日本一の鉱物学者」になるんだとか。彼はまわりから浮いている。なぜか、その子にコクられてしまったあたし・・・。
あたしの生まれた1995年は、阪神淡路大震災、サリン事件があった年。その後、9.11の同時多発テロ、イラク戦争、自衛隊の派遣、リーマンショックと続く。どうなる んだろう、あたしたちの未来。やっぱり、わが辞書に「希望」はない。卒業式と高校入試の合否発表があった。発表の翌日の3月17日、大地震発生。原発事故発生。怖かった。思いもしなかった出来事がおきた。遠い世界の誰かの出来事ではなく、まさに我が事として。
悩み、悲しみ、涙する。でもお腹は空くし、否応なしに新しい日々は始まる。しばらくして、あたしは新しい国語辞典を買った。この辞書には「希望」という言葉が載っている。
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私の娘は彼らと同学年。忘れないために、考え続けていくために、どんな時代を生きているのか、生きていくのかを知る手がかりにするために、若い人たちに手にとってもらいたいと思いました。 (なみ@えほんさん 50代・ママ )
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