ここではないどこかへ行きたい、ここではないどこかで住みたいという願望が心に浮かぶことがあります。
8歳のニコラは南の国から父の故郷である北の国で10日間だけの夏休みを過ごすとこになります。
ニコラはそこで父と仲の良かったカワウソのおじいさんと出会うのです。
父と仲の良かった「カワウソの」とあるので、本物のカワウソではなく、カワウソと縁のあるおじいさんなのかと思ったのですが、小さい時に一人ぼっちになった本物のカワウソでした。
カワウソのおじいさんの言葉でとても印象的な言葉があります。「自分にむいとると思うところへ行くのがよいのじゃよ。しらないところでくらしてみるのもわるくない。そのうちにまた、もとのところに帰ってきたくなったらねそれもよしじゃよ」
この本を書かれた山口智子さんは1960年から79年まで、絵を担当した堀内誠一さんは1973年から81年までフランスに滞在。本が出版されたのは、1984年です。
そんなことを考えると、カワウソじいさんの言葉は、フランスで滞在経験のあるお二人の気持ちと私は勝手に重ねてしまいました。
人生の中には、夢のような幻のように存在する何日かもしくは何カ月、何年という時間が存在するような気がします。
このニコラが経験した10日間も、そんな夢のような幻のような時間だったのかもしれないと、読んだ後ふっと思いました。
見返しにはこの本に出てくる地図が描かれています。その地図を見るとこの話は本当だったのかもと思えてきます。