世界各地のユダヤの民話が32編、旧約聖書の「創世記」から6編。
巻末には訳者の解説:ユダヤ民族について、文化や歴史の背景についてなどが収められ、大人も楽しめる読み応えのある一冊。
それぞれの物語は、一筋縄ではいかない独特のユーモアや皮肉が効いている。単純な改善懲悪ではなく、読み手に何かを考えさせられるような、示唆に富んだ話が多い。物語を楽しみながらも、ふと、自分の生活に戻り、社会の事や自分の暮らし、生き方についてちょっと立ち止まって考えさせられてしまうような民話だ。
旧約聖書の話は、キリスト教徒にとっては身近な話だが、初めて聖書を読む人にも大変わかりやすく、かつ、聖書よりも物語を具体的に、感情移入しやすいように膨らませて書かれている。聖書には書かれていない部分だが、例えば、カインが弟のアベルにたいして嫉妬する場面などは、兄弟間や同年代の人に対して誰でも体験するような心理描写が書かれてあり、だれしも多かれ少なかれ、このように他人に対してやっかみを持ったり、やるべきことをいい加減に済まそうとしてしまったりしたことに思い至るはず。
いづれにせよ、ユーモアがあり、面白いのだが、深い味わいも感じられる。読み手の理解力や、人生経験に応じて、楽しめる部分が違ってくる物語集だと思う。
小学生の高学年〜上はどなたでも、楽しめると思う。短編は、旧約聖書の6編以外は、どれも独立した物語なので、どこから読んでもいいので、気楽に本を開いて欲しい。