小さなおばけシリーズ第35作目。床屋のちょっきりさんのお店の鏡の後ろに住んでいるおばけ、コッチは、仕事熱心でお洒落さん。最近客足が遠のきつつあるのを心配し、斬新な髪形を提供するサービスを考えて二人で実行してみるが…
主人公のアッチ、悪役系ヒロインのドララちゃん、色物さんのボンなども登場し、スタア選手そろい踏みで豪華で楽しいお話。
おばけは遊んでいていいそうだが、コッチは天職を得て、師匠のちょっきり氏と一緒によい関係を作り、うまいこと人間の社会にも適用し、働いて稼ぐことができる珍しいおばけ。人間だってなかなかこうはいかない。絵本とはいえうらやましい限りだ。
テンポの良い軽快な文章も楽しいが、やはり絵の魅力が素晴らしい。床屋の親方はけっこういい年だが、なかなかファンキーな髪形でツーブロック。コッチは黄色に染めたモヒカン。そんな二人に「おまかせ」するお客さんの勇気もすごいが、よほど刺激に飢えていたのかもしれない。全員、前衛的な頭になって大喜びして、そのまま仕事に行ったり、学校にいったり、普通に暮らしている。
芸術に寛容な街らしい。きっと住んでいる人も幸せだろう。
ツッコミどころが満載なので、年齢の若い読者も楽しいし、大人が読んでも素直に何も考えずに楽しめる作品。
絵描きの仕事は果たして楽しかったのか、産みの苦しみを味わったのか、その辺を考えるのは野暮というものだが、この作品は絵描きの佐々木洋子嬢の素晴らしい努力と遊び心を讃えたい。
心が軽快になって、ちょっと自分も人生が変わるくらい髪型を斬新に変えてみようかと思う。しかし仕事に差し障ると本当に人生が変わってしまうので、ほどほどに。それが大人の生活ってもんで。