あるところに絵描きがいました。一部屋だけのアパートに、おくさんと三人の子どもたちと5人で住んでいました。絵は売れず、家計は火の車。でも、なんとかやりくりして、みんな仲良く暮らしていました。
でも、とうとう、どうにもならない日がやってきました。食べるものにも困り、絵の具を買うお金もありません。「あかいえのぐ」があと一本あれば、傑作が完成し、絵を買ってくれる人がいるというのに・・・。
今までにない危機を迎えた次の朝、思いがけない贈り物が届き、一家は窮地を脱出します。贈り物は、食べ物と「あかいえのぐ」!このことがきっかけで、絵描き一家にはうんがむいてきます。絵描きにはお金持ちのおじさんがいたのです。おじさんの会社を継いでほしいという願いを振り切ったため、絶縁状態になっていましたが、おじさんはこの家族のことが気になり、見守っていたのですね。
貧しくとも、自らの心の願いに忠実に生きてきた絵描きの生き方は、アーディゾーニの描く他の絵本の主人公たち(船に乗るチムや時計を作るジョニー)が、好きなものに邁進していく様子を思い出させます。「自分の好きなことを大切にする生き方」というのは、アーディゾーニの子どもたちへの強いメッセージではないでしょうか。
物語の最後の方で、絵描きは、絵がどんどん売れ、お金持ちになり、有名になり、田舎に別荘を持ち、大きな車で家族を別荘に連れていきます。「な-んだ、立身出世の物語になっちゃうの!?」とちょっとがっかりしかけましたが、次のページで、相変わらず一部屋のアパートで慎ましく暮らしている一家を見て、ちょっと安心しました。
あ、もちろん5人家族なのですから、もう少し広い家に引っ越したらいいと思うのですよ。ただ、あまりに境遇が変わって、彼の生き方にブレがでないか一瞬、心配しただけです。余計なお世話ですよね(笑)。貧しい絵描き時代を支えたおくさん、子どもたちもとてもステキでした。