石川えりこさんの絵本に魅かれるのは、その作品に自分が育ったものと同じ匂いや光を感じるせいだ。
昭和30年(1955年)生まれの石川さんだから、その匂いや光は昭和のそれといっていいかもしれないが、ちがった言い方をすれば幼い時に見た風景がそこにあるからだともいえる。
この『あひる』という作品に描かれている日常もそうだ。
そこに描かれているのは、飼っているにわとりが生んだ卵を食べ、年をとったにわとりは「しめて」鶏肉というごちそうになる、そんな日常だ。
おそらく現代の子供たちは鶏肉は食べてことがあっても、「しめて」という行為は知らない。
石川さんも私も、「しめて」鶏肉を食べた世代だ。
ある日、姉と弟のきょうだいの家に一羽のあひるがやってくる。
家の前の川であひるを、お父さんのつくってくれた木の船(この船の絵が昭和生まれにはたまらなく懐かしい)と泳がせたたりしていた。
ところが、そのあひるがいなくなった日、きょうだいの家の夕ご飯は野菜とお肉がいっぱいの豪華な鍋でした。
姉は、もしやと気づきます。
弟も心配になって、お母さんに「あひるの肉じゃないよね」とたずねます。
お母さんは違うと答えてくれたけれど、姉はもうわかっています。
自分の周りの現実を知る年齢になっていたのでしょう。
にわとりを「しめて」鶏肉として食べることは残酷でしょうか。
石川さんや私が小さかった頃、そうやって「いのち」を感じとっていったのです。