くうきにんげん、という不思議な存在の噂から始まるお話。世界中にたくさんいる、存在を消された人たちが、仲間を増やすためにあちこちで暗躍しているという。
現代社会には、この「くうきにんげん」が、本当にたくさんいると思います。社会的に存在を抹殺された人たち、存在価値を認めてもらえない人たち、人権を無視されてひどい扱いを受けている人たち、いてもいなくても同じだと周りも本人も思っている人達…このお話はSFのように描かれていますが、私には非常にリアルな話に感じられました。自己評価が低く、居ても居なくても同じで、何の役にも立っていないと感じていたら、その人は存在していないのと同じなのではないでしょうか? 引きこもり、孤独死などのイメージも付きまといます。あんがい近いところでは、隣近所の住人に対する無関心は、周りをくうきにんげんに囲まれているようなものかもしれません。
自分自身も、特に何かの役割もなく、日々ただ生きているというだけであり、自分以外の人にとっては「いないのと同じ」という程度の存在です。そのように自覚をしていると、すでに私という存在がくうきにんげんなので、敢て「存在を消される」という恐怖を味わうことはないので、安心しきっています。くうきにんげんなのに、税金は支払っていますが。
存在感のある人、自分の存在によって誰かの役に立っているという自覚がある人にとっては、非常な恐怖を味わう作品だと言えると思います。自分が好きな人は、知らない方がいい世界かもしれませんね。