文章を書く時、助詞には気をつけなさいと教えられる。
この絵本のタイトルでいえば、「海が」の「が」は使い方としてはおかしいのではないか。
正しく書けば、「海に」ではないか。
しかし、この絵本の主人公の男の子、ティモシイ・ロビンズ君、の気分でいえば、やはり「海がやってきた」なんだろう。
そして、それは多くの男の子が夢見る未踏の地へのあこがれのようなものだったのではないだろうか。
何しろ、最後に「波うちぎわの、かたくしめった白い砂に」自分の名前を書くなんて、ちょっとした冒険家のようだもの。
その日の朝早く、男の子はまだ空に灰色の霧がかかっている頃、海に向かって歩きだすところから始まる。
彼のあたまには「船長きどりのふるい帽子」までのっかっている。
朝早いので、砂浜には誰もいない。
男の子が一番のり。
だから、そこでみる生き物たちも彼が最初に見つけたものたちばかり。
海辺で拾った貝殻を耳にあてると、海の歌が聞こえたりする。
しだいに海の潮がふくれてきて、海辺にはたくさんの人が集まってくる。
そんな人たちのそばで、男の子は砂の城をつくったりする。
この子は騎士だ。
けれども、海はもっともっとあふれて、大きな波をうちよせる。
ロジャー・デュポアザンの単調な線の、けれど生き生きとしたラインの、それは青の単色でも色鮮やかな多色でも素敵な絵が、男の子の、まるで冒険家のような気持ちを上手に表現している。
だから、この絵本はやっぱり「海がやってきた」で正しいのだ。