老いて倒れた大木が土に還ってゆくさまを淡々と描写した絵本です。
息子はページを開いて、「あれ、写真じゃないんだ」とつぶやきました。デンマーク生まれの画家アンリ・ソレンセンの絵は、よく居間にかかっている風景画のような感じの、正統派の「絵画」。格調高いタッチと色使いで、森の美しさを見事に再現しています。枝のリスたち、アライグマ、虫をくわえたキツツキ、どれも生き生きとしていて、今にも動き出しそうです。嵐の場面では、風の音が聞こえて来そうです。
嵐で木が倒れたあとの変化を「観察」するトレッセルトの筆致は飾りがなく、ただひたすらに事実の描写に徹しています。科学絵本、と言ってもいいくらいの素っ気なさ。けれど、最後の最後の一行、たった一言にぎゅっ、っと作者の気持ちが凝縮されています。百年もの時を超えとうとう消えて行った大木、綿々と受け継がれてゆくいのち。一日二日では観ることの出来ない、いのちあるものにとって絶対に逃げることの出来ないない結末を目の当たりにして、切ない中にも何か、さわやかな読後感が残ります。最後の一言が、とても利いている絵本です。