この絵本の、小川未明の文は、『四年生の童話』(金の星社)掲載のものを底本にしているそうだから、
おそらく小学四年生あたりに学校で習うのだろう。
この『野ばら』は「日本のアンデルセン」と呼ばれた児童文学者の小川未明が
1922年に発表した短編で、すでに100年の時を経ていることになる。
それでもこうして、あべ弘士という現代の絵本作家の絵がついて
2024年9月に刊行されるのだろうから、
やはり戦争の悲惨さを描いたものとして、広く読まれ続けていくにちがいない。
あべ弘士さんの作品が好きなので、あらためて小川未明の物語に接することになった。
大きな国の老兵と小さな国の青年兵が国境で互いに見張ることになるところから話は始まる。
国境では何もすることがない。
近くの茂みの野ばらを愛で、みつばちの羽音も心地よい。
ある時から二人の兵士は言葉を交わしあい、将棋をさすようにもなっていきます。
ところが、二つの国で戦争が始まります。
敵ながら二人は戦うことができません。
それでも、青年兵は国の遠いところの戦場に出ていき、そのまま帰らぬ人となります。
老兵は国境に戻ってきて野ばらの匂いをかぐ青年の夢を見ます。
やがて、老兵も国境から去り、野ばらも枯れてしまうのです。
あべさんの絵で、100年前のお話がまた新しくなった。
世界から戦争がなくならない限り、このお話は何度もなんども読み継がれていくのだろう。