この絵本のタイトルにある「ならの木」は漢字で書くと、「楢の木」だろう。
絵を描いたのは平澤朋子さんで、彼女が描く「ならの木」も大きな葉が描かれているが、楢の木は落葉性の広葉樹の総称である。
日本でもこの木は見ることができるが、この絵本の舞台はどうも日本ではない。
町の名前が書かれているわけでもないし、絵本に登場する男の子に名前がついているのでもない。
ただ、少年が行こうとしていた「おまつり」にはメリーゴーランドもくるそうで、そういう「おまつり」は日本ではなかなかないのではないだろうか。
どちらかといえば、国籍不明の物語ではあるが、書いたのはやえがしなおこさんという日本の童話作家である。
日本の風景を消し去ることで、ならの木と少年の生涯をかけての約束物語が世界中の人々にも読んでもらえる広がりができたともいえる。
野原の若いならの木に、これから「おまつり」に行くという少年が、「おみやげに枝にぶらさげる鈴を買ってくる」と約束して行ってします。
ところが、少年は戻ってこなかった。
ならの木は何年も少年を待ち続ける。
ある日、若者になった少年がならの木の前に立つのだが、彼はならの木にした約束を思い出すことはなく、立ち去っていく。
もっともっと年が過ぎ、少年も年老いた男になっている。
そして、ある日、彼はならの木とした約束をふいに思い出すのだった。
短い物語ながら、少年のたどった厳しい人生と約束を待ち続けたならの木の人生がフランス映画のようなしっとりした味わいをもった作品に仕上がっている。