虔十は、周りから馬鹿にされる人ではありましたが、質の悪い土地に杉苗を植え、杉林を作ります。
自分の杉林で沢山の子どもたちが喜んでいるのを見て、虔十もどれだけ幸せだったか分かりません。
何でも真に受けて優しい虔十が、人生でたった一度だけ人に逆らったのは、その杉林を伐れと言われたことでした。殴られても決して伐ることをしなかった虔十。その思いに胸を打たれました。
虔十は流行り病で死んでしまいますが、その杉林は何十年経って、周りがどんなに変わっても、その姿を変えることなく、今も子どもたちの遊び場となっていました。
若い博士の「ああ全くたれがかしこく、たれが賢くないかはわかりません」という言葉、本当に、賢いというのは単に勉強が出来ることではないということを、このお話は教えてくれました。
子どもの頃に皆で遊んだ楽しく幸せな時間を、虔十の杉林は今もなお多くの人の心に作り続けているのでした。
宮沢賢治の作品の中でも、特に心に響くお話です。
賢治の「本当の賢さとは何か、本当の幸いとは何か」ということを考えさせられるお話でした。
また、虔十に対する家族の愛情というものも、身に染みて感じる作品でした。
賢治の絵本は世に沢山ありますが、このシリーズでは作品ごとに実に個性豊かな挿絵が描かれていて、それも魅力の一つだと思います。
伊藤秀男さんの挿絵は、とても力強くて、明るくて、素朴で、そして温かい。この作品にピッタリだと思いました。
特に表紙は是非、表裏広げて見て下さい。杉の陰から虔十が嬉しそうに笑っている姿が見えてきます。
そして、表紙の学生帽の少年は、あの若い博士の少年時代の姿でしょうか。
どの子もどの子も、とても楽しそうな、幸せな表情をしていますね(^^)