季節は初冬、人々がクリスマスの準備に取り掛かろうという頃、とある農夫のもとに一人の男が商談にやって来る。本文にはないが絵では商人の身なりはいかにも立派で乗ってきた車も高級車然と描かれる。農夫と商人が対照的なのは外見だけではない。農夫は所有する山の数多のモミの一本一本が素晴らしく神々しいとさえ思うが、商人にとっては金を儲けるための商品でしかなかった。全く相容れるところのなさそうな二人だが、作者フロストは農夫の‥人柄ゆえか立場ゆえか、弱さ、卑屈さを織り込んでくる。農夫は商談に少なくとも表向きには乗ったかのように振る舞うことになる。「売る気はない」とつぶやきながら。山のモミを値踏みして回った商人の大言につい乗せられた農夫の「1本いくらです?」というセリフに読み手は《えっ?》と思うだろう。農夫はこうも独白する「どうして1本が3セントなのか」。フロストがただ強固な意志を持った正しく善き人を描こうとしていないことがよく分かるくだりだ。そうなのだ、人は常に揺れる心を抱えながら、その「揺れ」を通過してこそ、自分の大切なものを更に強く再確認するのではないか。その再確認が最後のページのモミの絵のカードに美しく結晶したように思う。途中にも印象的なページがある。その視線の先に全く異なるものを見ているに違いない二人の横顔が、まるで近しい者同士であるかのように重なって描かれているページ。とても示唆的で、多くのことを語りかけてくる。